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【誤解が多い統合失調症】

突然、人が変わったかのように神経質になり、「命を狙われている」 と言い始めたAさん(33歳)。
鬱症状もあり、上司から受診を勧められていたのだが。

それまであまり目立たなかった人が、事実と反すると.しか思えな い、あり得ないことを真顔で言ったり、人柄が変わったかのような奇妙な行動 を取るようになった場合、可能性の1つとして「統合失調症」が疑われる。

かつては「精神分裂病」と呼ばれていたが、そのあまりにも強烈で暗い印 象を払拭したいという患者さんやその家族の希望も強く、2002年、日本精 神神経学会が現在の名称に改めた。これで随分と印象は和らいだが、この病 気に対する人々の誤解はまだ多い。

生涯罹患率は約0.85%、決して稀な病気ではない。1000人規模の会社 なら、10人近くが、一生のうちにこの病気にかかるということになる。にも かかわらず、一般的にこの病気についてはよく知られていないのが現状だ。

症状には大きく分けて、陽性症状と陰性症状とがある。陽性症状には、幻 聴、幻視といった幻覚や、被害妄想、誇大妄想といった妄想症状などがあ る。幻聴では、その場にいない人の声で、自分の悪口や脅迫するような言葉 が聞こえてきたり、妄想では、「自分のことがみんなに分かられてしまって いる」とか、「監視されている」と主張する患者さんも多い。

このような陽性症状が表れた場合は、周りの人たちにも病気のせいだと 気づかれやすいが、当の本人には、自分が病気であるという意識がほとんど ない。そのため、ストレートに精神科への受診を勧めても、本人はかえって 態度を硬化させてしまうので、うまくいかないことが多い。

陰性症状が日立っている場合には、気力の低下が見られ、生き生きとした 感情の表現も減り、集中力や根気に欠けてくる。他人への関心もなくなり、 自分の世界に閉じこもり、健康な日常生活を営むこと自体が困難になる。こ のような姿は、時として、鬱病と勘違いされる場合も少なくない。

明瞭な原因はまだ不明だが、ドーパミンなどの脳内神経伝達物質が関係し ていることが有力視されている。

かつてはこれといった治療法もなく、患者さんの多くはその生涯を病院 で過ごさなくてはならなかった。そんな時代が長く続き、予後が極めて悪い 病気だと思われていたが、最近では抗精神病薬や新しい治療プログラムの 開発も進み、外来通院での治療も可能となった。日常生活をそれほど支障な く送れる例も増えてきている。

しかし、治療の開始が遅れた場合、回復への道のりが困難と.なることが多 い。早期発見・早期治療が望まれるが、本人はなかなかその気にならないの で、不眠や精神的疲労の回復を理由にするなどして、受診につなげてほしい。

この病気は、病初期の受診にも回復期の治療にも、家族や周囲の人たちの サポートが必要だ。何よりも、病気に関する正しい認識を、1人でも多くの 人に持ってもらいたいと願っている。
(談話まとめ:仲尾 匡代=医療ジャーナリスト)

[出典:日経ビジネス、2008/09/22号、関根 義夫=社会福祉法人賛育会 賛育会病院(東京都墨田区)病院長]

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