【ガンになったら心のケアも】

父親がガンであると告知されたYさん(48歳)。告知後の父親の 激しい落ち込みが気になる。
ガン患者の心に関する専門の医療があると聞いたのだが。

近年、患者にガンが発見された場患者自身による治療法の選 択や、QOL(生活の質)の向上のため、本人への告知の動きが進んできた。

前向きに治療に向かうためにも有効な告知。しかし一方で、告知により突 然身近に“死”を意識させられることで、患者や家族が落胆や孤独感などの 絶望感を覚えるのも確かである。それにより、急性のストレス反応や適応障 害、鬱病などに陥る人も少なくない。これは、患者本人だけでなく、家族に も起こり得ることだ。

こうしたガン患者や家族の心のケアを考えるために生まれたのが、「サイ コオンコロジー」だ。これは、心理学(サイコロジー)と腫瘍学(オンコロジー) を合わせた造語。直接ガンの治療を行う診療科だけでなく、精神科や、社会 学的側面をカバーする専門家もタッグを組み、治療を行う。

そもそもサイコオンコロジーは、告知後の自殺対策として生まれた経緯が ある。ガン患者では500人に1人が自殺しており、告知後3〜6カ月がその ピークとなる。また、患者は治療の過程で10〜30%の人が適応障害や鬱病 を発症しているというデータもある。サイコオンコロジーでは、精神科によ るケアでQOLの向上を図るだけでなく、自殺を防ぎ、さらにガンの罹患率 や生存率の改善を目的にしている。

まだ日本でのサイコオンコロジーに対する認知度は低いが、1992年の国 立がんセンターヘの精神科の設置後、全国のガン拠点病院での整備が広がり つつある。

ガン患者が心の負担を軽減するには、家族や友人、医師、看護師など、 話しやすい相手にその時の自分が何を不安に思っているのか、何を知りたい のかなどを打ち明けることが大切だ。病気と向き合う過程では、様々な不安 や迷いが生じるもの。その時に、人に話を開いてもらうと心が落ち着くだけ でなく、対話を繰り返すうちに、現状を理解し、受け入れ、混乱した気持ち の整理がつきやすくなる。

ただ、このように自分で自分の心に折り合いをつけることができない人も 少なくないはず。その場合には、重篤な心の病に侵される前に、早めに心の 状態を見極めることが大切だ。「落ち込みが長引き眠れない」「食欲がない」 「疲れてやる気が起こらない」など、日常生活への支障が続くようであれば、 鬱病になっている可能性がある。なるべく早く主治医や看護師などに相談す ることが肝要だ。精神科の医師や臨床心理士などの専門家を紹介してもらう のもいい。

早期に相談すれば、いたずらに精神的な苦しみを長引かせずに済む。これ は、患者の家族も同じこと。特に、近しい家族をガンで失った場合には鬱病 になりやすいので、少しでも兆候があれば、カウンセリングやグループセラ ピーなどを受けるといい。
(談話まとめ:武田 京子=医療ジャーナリスト)

[出典:日経ビジネス、2008/08/25号、内富 庸介=国立がんセンター東病院(千葉県柏市) 臨床開発センター 精神腫瘍学開発部部長]

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