【機内感染は手洗いで防げる】

飛行機が嫌いなKさん(45歳)。
飛ぶのが怖いわけではなく、密閉された空間に長時間いると、 「人から病気がうつるのでは…」と心配でたまらないのだ。

Kさんのように、長時間飛行機に乗ることで、ほかの乗客から病 気をうつされるのではないか、と心配する人は多い。特に5年ほど前、中国 や香港でSARS(重症急性呼吸器症候群)が流行し、機内感染が報告された ことから、そうした不安は増大してしまったのだろう。2006年には、飛行 機に乗った人の数は世界で21億人に上ったというから、機内感染が大きな 関心事であるのは間違いない。

だが、これまでの研究結果から、飛行機内での病気の感染は、一般に考え られているほど多くはないことが分かってきた。例えば、機内の細菌やカビ などの菌類の濃度は、公の建物の空気中の濃度より低いという報告もある。

結核について調べた研究では、感染源から前後2列以内に座っていて、8 時間以上の飛行時間がある場合に、感染する可能性が高いと言われている。 逆に、15列以上離れていれば、感染リスクはほぼゼロだと考えてよい。

また、機内の空気は、外気からの新しい空気と、機内の空気を循環して再 利用する空気がおよそ半々で保たれている。まず、外気は非常に温度が低い ので、無菌状態である。次に、再循環する空気については、ヘパ(HEPA)フ ィルターを使って空気を濾過しているので、0.3マイクロメートル(マイク ロは100万分の1)の微粒子を、ほぼ100%濾過することができる。

これにより、病気のもとになる細菌は濾過され、また風邪やインフルエン ザなどの原因となるウイルスも、感染しにくくなる。さらに循環のスピード も速く、機内のすべての空気が2〜3分で一巡する点も、感染予防につなが っている。最近の飛行機では、自分の座席付近の空気が繰り返し循環し続け るようにできているので、遠くに座っている人から風邪などがうつる可能性 も低くなっている。

1979年に米国で、約50人の乗客の72%が、飛行後72時間以内にインフ ルエンザに感染してしまった例がある。だがこれは、飛行機が修理のため に地上で3時間、換気装置を使わずに駐機したことが原因のようだ。

一方、過度に心配はいらないものの、機内で病気が感染することは確かだ。 インフルエンザの世界的流行に、飛行機内での感染が関与していることは、 明らかになっている。また麻疹(はしか)では、10時間の飛行後に8人にう つった事例がある。

感染経路は、空気よりも、シートベルトやトレーなどに触ることによるも のが多いようだ。インフルエンザウイルスは約24時間、SARSウイルスは約 72時間まで、プラスチックの表面で生きていることができるという。

そこで、最も大切なのは、頻繁に手を石鹸で洗うことだ。機内では席を立 ちにくいので、消毒用アルコール入りのウェットティッシュなどを使うとよ いだろう。
(談話まとめ:當麻 あづさ=医療ジャーナリスト)

[出典:日経ビジネス、2008/08/18号、矢沢 珪二郎=八ワイ大学(米国ホノルル)医師]

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