【水は百薬の長】
現代では水を買って飲むことは珍しくないが、江戸時代でも同様だった。
夏ともなると、「冷やっこい、冷やっこい」という水売りの声が江戸の町に
響いた。笠を被り、2つの桶を天秤で担いで売り歩くその姿は、夏の風物詩
でもあった。江戸には江戸っ子自慢の水道があったが、浄水の設備がなく、
夏は生ぬるくなり多少の汚れが気になった。そこで、水売りたちが深い井戸
の冷たい水を仕入れて売り歩いた。
前の桶には小さな屋台がついていて、涼味を感じさせる錫や真銀製の茶
碗が収められていた。「滝水」「冷水」などの看板もぶら下げていたが、実態は
ぬるま湯。炎天下で売れば、どんな水もぬるま湯になってしまう。「ぬるま
湯を辻々で売る暑いこと」(古川柳)。
ともあれ、夏には1杯の水は最良の薬となる。中高年は大汗をかいた後、
脳梗塞が起こりやすい。発汗によって血液が漫縮され、固まりやすくなって
しまうのだ。それを防ぐには、夏場はこまめに水分を補給しておくこと。老
齢になると、特に意識的な水分の摂取が重要になる。年を取ると、喉の渇き
を感じにくくなるからだ。夏場、お年寄りに脱水症が目立つのはそのため。
これは命取りになる。寝る前に、1杯の水を飲んでおきたい。
起きがけに飲む1杯の水は、大腸を刺激し、便秘解消に役立つ。胃酸過多の
の人も、よく水を飲むと胃液が薄められ、胃粘膜が守られる。下痢をした時
も水分が失われるので、水を補給しておこう。水分が不足すると、尿が濃縮
され、尿路結石も起こしやすいので、この意味でも1杯の水が大切だ。
[出典:日経ビジネス、2008/07/21号、堀田 宗路=医学ジャーナリスト]
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