【行動変容で“メタボの壁”を破れ】
金融機関の部長のHさん(46歳)。
4月から開始された特定健診で、レタポリックシンドローム」との
警告を受けた。改善するには何から始めればいいのだろう。
メタポリックシンドローム(内臓脂肪症候群)は内臓脂肪が蓄
積したうえで、糖尿病や高血圧、血中脂質異常が軽い段階でも重複すると、
動脈硬化に進みやすいという考え方である。
今や“メタボ”という言葉は市民権を得て、メタボに対する関心は高まっ
ているものの、実際には「自分には関係ない」と信じ込んでいる人も多い。
「肥満が健康上好ましくない」という感覚は持っていても、現実的な危機感
がないのだろう。
メタボ対策の一環として、腹囲も測定する特定健康診査(通称メタボ健診)
が4月から始まった。医療費抑制政策と言ってしまえばそれまでだが、自分
自身の健康を顧みるには、特定健診はいいチャンスと捉えたい。「医師」、す
なわち、医療に頼っていた時代は終焉を迎えようとしている。これからは、
自身の「意思」に健康が任されていると考えるべきであろう。
長年、私も肥満の患者さんを前にその弊害を説明し、痩せるように助言を
与え続けてきた。しかし、指導通りに痩せる人は実に稀である。診断、助言・
指導、生活習慣の改善、メタボの改善という流れを期待するものの、実際に
は「生活習慣の改善」というステップに大きな壁が立ちはだかっている。ま
さに、これが“メタボの壁”となっているのだ。
心理学用語に「行動変容」という言葉がある。習慣化された行動パターン
を変えることを意味する。食生活や運動などの生活習慣をいい方向に変える
この行動変容なくしては、メタボの壁は越えられないという現実がある。
では、どうしたらいいのか。長年の苦い経験から最近、ようやく指導のコ
ツをつかんだ。まず、初めから大きな目標を立てようとはせず、無理のない
目標を設定する。よほどの肥満でない限り、1カ月に0.5kg、4カ月で2kg
の減量でいい。2リットルのペットボトル1本分の脂肪が取れれば、随分ス
マートになると想像してみよう。内臓脂肪は皮下脂肪に比べてつきやすい一
方で、減量でまず減るのも内臓脂肪なのだ。
具体的には、「食事」と「運動」が減量の2本柱となる。食事では夕食の量
を5%減らし(ご飯やおかずをほんの少し控える程度)、運動では今よりも
1000歩余計に歩けばいい。これだけでもきちんと実行できれば、メタボの
改善が期待できる。くれぐれも、4カ月で2kg以上痩せようとはしないで
ほしい。必ずリバウンドが起こる。
メタボが進行すると、心筋梗塞や脳梗塞になる危険性が格段に増す。もし、
それらを発病したなら、若くして不自由な生活を強いられ、莫大な医療費も
必要となる。時には、医師や保健師などから話を開き、こうしたメタボに対
する正しい知識と、理解を深めることも肝要だ。
(談話まとめ:江木園貴=プレゼランス)
[出典:日経ビジネス、2008/07/07号、栗原 毅=栗原クリニック
東京・日本橋(東京都中央区)院長 慶応義塾大学大学院教授]
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