【傷に消毒と乾燥はご法度】

自転車で転倒して肘に大きな擦り傷を負ってしまったTさん(51歳)。
病院で消毒はいらないと言われたが、大丈夫だろうか。

擦り傷ややけどを負った時、染みるのを我慢しながら毎日消毒を 行い、ガーゼを当てていた経験はないだろうか。傷が乾いてガーゼが張りつ き、はがす時には痛い思いをしたものだろう。だが最近、こうした傷の治療 法が変わってきた。消毒したり乾焼させたりすることは、傷の治りを妨げる 要因になることが分かったからだ。

もともと皮膚は自然治癒カを持っている。擦り傷ややけどなど、皮膚に欠 損創ができると、黄色っぽいジクジクした滲出液が出てくるが、この滲出液 には細胞を成長させ、皮膚の再生を促す重要な因子が含まれている。この液 の中で傷が治るのに必要な細胞を増やしているのだ。

だが、傷が乾燥するとこの滲出液に含まれる細胞は死んでしまい、かさぶ たになる。消毒薬も、傷の細菌感染を予防するために使われてきたが、実際 には完全に細菌を殺すことはできないうえ、人の正常な皮膚の細胞まで殺し てしまい、再生を阻害することになる。ガーゼの使用も問題だ。当てれば滲出 液を吸い取ってしまうし、はがす時にはせっかく再生した皮膚も一緒にはが してしまう。

こうした考えから新たに広がっているのが、「湿潤治療」と呼ばれる治療法 だ。傷は湿った環境を保った方が、欠損した組織や細胞は早く再生し、上皮 化が得られる。この治療の原則は、傷に対して余計なことをせず、一番早く 治る環境を整えることなのだ。

消毒はせず、傷に汚染や異物があれば、水道水によって除去する。そして、 傷の表面を乾燥させないようにワセリンを塗ったラップや創傷被覆材で覆っ ておく。あとは1日1回程度、水道水で創部を洗い、被覆材などを張り替え ていくだけだ。傷を消毒して乾燥させる従来の方法に比べ、痛みが少なく、 早くきれいに治る。

現在、創部の湿潤環境を整えるための様々な創傷被覆材が発売されてい る。医療機関ではこうした被覆材を傷に張ったうえで、乾燥しないようフィ ルムで覆うといった処置をしている。

浅い傷ならば、自宅でも十分対応可能だ。最近は市販の創傷被覆材(ハイ ドロコロイド被覆材)も販売されており、擦り傷ではこうしたものを用いて もきれいに早く治る。また、ちょっとした擦り傷程度なら、絆創膏にワセリ ンを塗って張れば、傷にくっつかず乾燥もしない。

ただし、滲出液が多くてジクジクしているような傷や、傷の周りが赤くな り感染兆候にあ為ようなケースは、一度医療機関での受診を勧める。犬など の動物に噛まれたり、出血が止まらないといった場合も同様だ。

市販の被覆材は膿が出るような深い傷には向かない。何日も張りっぱなし にしていると膿がたまりやすく、深部まで感染が広がってしまう危険性もあ るので要注意だ。
(談話まとめ:末田聡美=日経メディカル)

[出典:日経ビジネス、2008/06/08号、柿田豊=柿田医院く東京都杉並区)副院長]

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