【重度の鬱病に電気治療】

鬱病で休職中のTさん(45歳)。処方薬の効果を実感できないまま 復職の時期が近づいてきた。
ECTという治療法があると開き、受けてみたいと思ったのだが。

ECTとはelectroconvulsive therapy(電気けいれん療法)の 略だが、現在、医療現場でECTと言った場合は、全身けいれんを伴わない 「無けいれんECT(修正型ECT)」を指すのが一般的である。

ECTは1930年代に発表され、主に統合失調症の治療に取り入れられてき た。通電時の全身けいれんが激しく残虐的に見えるため、一部の病院では入 院患者に対し懲罰的な意味合いで使われ、それが社会問題になったこともあ る。そのせいもあってかよい印象を持たれず、抗精神病薬が開発されるにつ れ、従来型のECTは徐々に行われなくなっていった。

しかし80年代から、従来型のECTに修正を加えた、無けいれんの修正型 ECTを治療に取り入れる病院が増えていき、今では鬱病の治療法としても 一般的になっている。2002年に、今までの通電装置よりも少ない電流で脳 にけいれんを起こすことができる装置が認可され、より少ない副作用で施術 できるようにもなった。

鬱病の治療にECT(以下、修正型ECTの意)を用いる症状として、まず 自殺念慮が挙げられる。混迷、焦燥、妄想など、いずれも治療の緊急度が高 い症状にも、ECTが検討される。薬物治療は時間を要するが、ECTには即 効性があるからだ。また、様々な抗鬱剤を長期服用しても症状が改善しない 難治性鬱病も、ECTの対象となる。

ECTの施術では、脳神経に電気刺激を与えるために、頭部に電極を当て 電流を流す。メスを使っての手術はないが、全身けいれんを抑えるために全 身麻酔を用いる。施術を受けるには入院が必須となり、術前1週間でECTを 受けても問題がないかを検査する。

脳梗塞や脳出血、脳腫瘍があった場合は、施術で脳内の庄が高まるため受 けられない。それ以外の疾患の場合は、各科の医師と相談のうえで決定する。 施術は病室に戻るまでで1時間程度、これを週に1〜3回の頻度で合計6〜 12回行い1クールとする。効果には個人差があるが、おおむね薬物治療より も効果が高い。1クールで症状が劇的に改善し、何年も再発しない例もある。

副作用には、術後30分ほどで治まるものに血圧上昇や不整脈が、1日程 度で治まるものに頭痛、筋肉痛、発熱などがある。記憶障害も副作用の1つ だが、重度の場合でも大抵の人が数日から2週間程度で記憶が戻っており、 一過性のものと言える。死に至る危険率は5万分の1と、全身麻酔下の施術 の中では極めて低い数値と言える。

ECTがなぜ鬱病に効くのかは、現在のところまだ分かっていない。通電 により神経が回復、血流が良くなり、意欲や気力といった感情を司る脳の前 頭野が活性化して鬱症状が改善するのではないかとも言われている。研究が 進むにつれ、近い将来、そのメカニズムも明らかになっていくだろう。
(談話まとめ:仲尾匡代=医療ジャーナリスト)

[出典:日経ビジネス、2008/06/02号、音羽健司=東京大学医学部附属病院(東京都文京区) 精神神経科 医学博士]

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