【腕に起こる筋肉の断裂】

週末にジムで体を鍛えているSさん(55歳)。少し熱が入り、 上腕にプチッという音とともに軽い痛みが走った。病院では 上腕二頭筋断裂と診断された。

上腕二頭筋は、腕の力こぶを作る、肘から肩にかけての筋肉で ある。主に、肘関節を曲げたり、前腕を外側に回す時に働く。肩側の上端で 長頭腱と短頭腱の2本に分かれているのが、この名前の由来だ。

上腕二頭筋断裂は、肩に近い上端部が断裂する場合と、肘に近い下端部が 断裂する場合とがある。

上端部の断裂では、構造上、上腕骨との摩擦を受けやすい長頭腱が断裂す る。基本的な原因は、加齢や長期にわたる反復動作による筋肉の退行変性 だ。そこに、直接的な原因として何らかのカが急激に加わることで、断裂す る場合が多い。

40〜50代以降でスポーツをする人や、肉体労働をする人などによく起こ る。男性の場合がほとんどで、女性に見られることは稀である。重量挙げや ラグビーなどの激しいスポーツだけでなく、ゴルフやテニスなどあまり強い カを必要としないスポーツでも、長年続けていると起こり得る。

長頭腱断裂の症状は、人によって多少異なるものの、何かが切れるような 小さな音がするとともに、肩から二の腕の前方にかけて軽い痛みを感じるこ とが多いようだ。力こぶの近くの皮膚に、出血による青あざができることも ある。また、何も感じず、知らないうちに断裂していて、運動や仕事を続け ているケースもある。

長頭腱の上端が完全に切断されてしまうため、引っ張られていたゴムが縮 むように、力こぶは肘寄りに下がって、驚くほどぼっこりと盛り上がる。応急 処置の必要は特にないが、痛みがあれば冷やしたり、三角巾などで固定して から、整形外科で診てもらうといいだろう。

一般的な診療では、1〜2週間の安静などによる保存療法を行えばよい。 念のために、原因となったスポーツや仕事などへの復帰は急がず、徐々に慣 らしていくといいだろう。筋力は多少落ちても、日常生活に支障はない。

再建の手術法もあるが、完全に元通りにはなりにくいため、ほとんど行う ことはない。しかし、仕事に不都合があったり、若いスポーツマンなどで必 要がある場合、痛みが続く場合などは3カ月以内に固定手術を行う。

一方、肘に近い下端部が断裂すると重症になる。肘を曲げるカや手のひら を上に向けるカがかなり低下してしまうのだ。上端部の断裂ほど起こる頻度 は少ないが、腕相撲や野球で飛球を取る時などに起こりやすい。

下端部が断裂した時は、ほとんどの場合、手術を行う。手術には、高度な 技術と熟練が要求される。また、時として何が起こったのか診断がつかず、 見逃されることもあるため、この分野の経験豊かな専門医を訪れることが望 ましい。障害を受けてから直ちに適切な診断と手術を行えば、ほぼ元通りの 機能回復が得られるはずだ。
(談話まとめ:杉元順子=医療ジャーナリスト)

[出典:日経ビジネス、2008/05/19号、柏口 新二=東京厚生年金病院(東京都新宿区) 整形外科部長]

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