【『スローライフで潰瘍撃退』】
5月は風薫る快適な季節のはずなのだが、就職や異動など、新生活による
ストレスで、どっと疲れが出てくる季節でもある。この時期には、体調を崩
して病院の門を叩く人が少なくなく、胃腸炎や潰瘍を患い、食が細くなる例
もよく見受けられる。
胃や十二指腸にできる潰瘍は、かつてはストレスが原因との説が主流だっ
たが、2005年にノーベル賞を受賞したヘリコバタター・ピロリ菌の発見
(1983年)以来、潰瘍の大半は細菌感染が原因と判明した。医学界にとっては、
コペルニクスがそれまでの天動説を覆して地動説を唱えた、コペルニクス的
転回にも匹敵する大事件であった。
今では、その治療法もガラリと変わり、抗生物質などを使って胃にすみ着
いているピロリ菌を殺菌する、「除菌療法」が主流となっている。
だが、潰瘍の発症の引き金が、たとえピロリ菌の感染であったとしても、
このピロリ菌の体内への侵入を許すような環境を作らないことが、胃腸を守
るコツであることに変わりはない。
つまり、精神的な慢性のストレスや暴飲暴食、仕事に追われての不規則な
食生活などが、潰瘍発生の誘因になることは十分に考えられる。
胃がストレスによる強い影響を受けることは、外傷で穴が開いた少年の胃
を観察した際、感情によって血流が激しく変わることが発見された「トムの
胃」によって立証されている。
生活にゆとりを持った、いわゆるスローライフを心がけ、過度なストレス
を避けることは、やはり胃腸の健康にとっては大切な心がけなのである。
[出典:日経ビジネス、2008/05/12号、志賀 貢=医学博士]
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