【鬱と見間違う甲状腺の病気】

規則正しい生活にもかかわらず、最近やたらと疲れやすく、 むくみと便秘に悩むYさん(47歳)。
物忘れも激しくなり、気落ちして仕事に支障が出てきた。

全身の倦怠感やむくみ、便秘などの症状に加え、Yさんのように 記憶力の低下といった症状が見られる場合、橋本病による甲状腺機能低下症 が疑われる。

一般的に女性の病気と思われがちな橋本病だが、決して男性に無線なわけ ではない。各々別の症状で病院を受診した成人男性のうち、40人に1人が橋 本病であったというデータもあるほど身近な病気である。男女ともに、40代 以降での発症が圧倒的に多い。

橋本病は自己免疫疾患の1つで、リンパ球により甲状腺が炎症を起こす。 約7割の人は甲状腺が腫れる以外の症状はなく、炎症の程度が低ければ自覚 症状すらない。残り3割の人が甲状腺機能低下症となり、体に支障を来す 様々な症状が表れる。

主な症状には、全身の倦怠感やむくみ、便秘、声のかすれやもつれ、皮膚 の乾燥、脈拍や体温の低下、関節痛、意欲や記憶力の低下などがある。どの 症状が出るかは人によって違い、その重さも様々だ。同じ人でも時期によっ て違った症状が出ることもある。高齢者が発症した場合は老化や痴呆と勘違 いされることも多く、Yさんのように働き盛りの年代では、鬱病と間違えら れることもありがちだ。

橋本病は、明治の未に橋本策博士によって発見され、1952年に原因とな る抗体が見つかって以来、血液検査による診断が可能となった。慢性疾患の ため完治することはないが、チラーヂンSという薬の服用で、甲状腺機能低 下症による様々な症状は緩和され、健康な人と変わらない生活がほぼ取り戻 せる。投薬による治療は数カ月に1度の受診で済むので、忙しいビジネスマ ンでも仕事に差し支えることはない。

橋本病自体は命に関わる病気ではない。だが、動脈硬化を併発している場 合は注意が必要だ。甲状腺機能低下症のためにコレステロール値が上がるこ とがあり、脳梗塞や心筋梗塞を起こしやすくなる。高脂血症と診断された場 合は、必ずTSH(甲状腺刺激ホルモン)の検査も受けてほしい。甲状腺機能低 下症だった場合、その治療をしないままに高脂血痘の薬を服用していると、 副作用が起きやすくなる可能性がある。甲状腺の機能低下のために代謝が 落ちるので、薬が効かなくなったり、体に蓄積されたりする。特にスタチン 系の薬を服用する場合は、横紋筋融解症という、命の危険もある副作用を起 こしやすくなるので要注意だ。

米国では、健康診断の際にTSHの検査を行うが、残念ながら日本ではま だ一般的ではない。検査項目にTSHがなければ追加で依頼し、異常値が出 た場合は直ちに専門医の受診を。橋本病であっても甲状腺機能が正常であれ ば、すぐに治療が必要ということはない。ただし、将来、甲状腺機能が低下 してくる可能性があるため、定期的な検査を行うのが望ましいだろう。
(談話まとめ:仲尾匡代=医療ジャーナリスト)

[出典:日経ビジネス、2008/03/17号、吉村弘=伊藤病院甲状腺疾患専門 医学博士内科部長]

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