【市販の風邪薬飲んだら乗るな】
熱があり鼻水も出ているが、仕事が忙しく休めそうもない
Kさん(35歳)。
市販の風邪薬で乗り切ろうと薬局に向かった。
今の季節、市販の総合感冒薬や鼻7炎治療薬を内服する人は多いだ
ろう。これらの薬剤に入っている抗ヒスタミン薬には、眠気などの副作用が
強く出る古いタイプとその欠点が改良された新しいタイプがあるが、市販の
総合感冒薬の多くは、古いタイプの薬が成分として含まれている。
抗ヒスタミン薬は、鼻の粘膜に作用することで、鼻水、鼻づまり、くしゃ
みなどの症状を軽減できる。本来、薬剤が症状の出ているところだけに作用
するのが理想だが、古いタイプの抗ヒスタミン薬の場合、鼻だけでなく脳内
でも薬が作用してしまうのだ。
その結果、眠気などの自覚症状が強く出るのに加えて、作業効率が低下し、
集中力や判断力も大きく低下する。眠気が強く出るほど薬の効果が高くなる
わけでもない。やっかいなのは、こうした副作用は本人も周囲も気づきにく
く、ある日突然、重大な事故につながる危険性があることだ。
例えば、高速バスの運転手が運転中に強い眠気を催して緊急停車するとい
うトラブルが最近あったが、その運転手は風邪を引いており、乗務前に市販
の総合感冒薬を内服していたという。
総合感冒薬1錠に含まれる抗ヒスタミン薬(d−マレイン酸クロルフェニラ
ミン2mg:最少1回用量)は、酒酔い運転のレベルになるウイスキーシング
ル約3杯を飲んだ場合と同等の危険性(集中力、判断力の低下)になることが
我々の研究から分かっている。実際、運転中にブレーキを踏むタイミングを
調べると、古いタイプの抗ヒスタミン薬を飲んだ方が、飲酒した場合よりも
反応が格段に遅れることが、内外の研究から明らかになっているのだ。
こうした自動車運転の危険性などは、実は薬の注意事項に書いてあるのだが、
内服する時に読んで注意している人はどの程度いるだろうか。
風邪を引いても病院に行く暇がなく、市販の薬を飲んで頑張って働こうとす
る人は多いが、本来はあまり勧められない。基本的には飲酒運転と同じで、
「飲んだら乗るな(働くな)」。機械や車の運転など、危険な仕事を行う場合に
はもちろんのこと、集中力を問われる仕事や知的作業においても、薬を飲ま
ない方がミスを犯すリスクが少ないうえ、労働生産性も高い。
総合感冒薬はそもそも、病気自体を治すものではなく、症状を軽減する目
的で飲むもの。本当に症状がつらい時にだけ内服してゆっくり休むのがベス
トだろう。ただし、高熱があってつらくても仕事が休めないといったケース
で市販の総合感冒薬などを飲む場合には、副作用が出現することを承知した
うえで短期間の服用とし、日中は内服しないことを勧める。
なお、最近では、脳への作用が少ない新しいタイプの抗ヒスタミン薬を含
んだ薬剤も登場している。薬剤師や医師に尋ねてみるとよい。
(談話まとめ:末田聡美=日経メディカル)
[出典:日経ビジネス、2008/03/03号、谷内一彦=東北大学大学院医学系
研究科機能薬理学教授]
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