【手術前には口腔ケアを】

父親が食道ガンを手術することになったWさん(48歳)。
同僚から「手術前に口腔ケアをしてもらうと術後の合併症が減るらしい」と 言われたが、どういうことだろうか。

近年、口の中の細菌が、糖尿病や心疾患など様々な全身の病気に 関係することが知られてきた。これは、歯周病菌などの口腔内細菌や、それら の細菌が作り出す養素が体内に入って炎症を起こすのが主な原因だ。
健康維持のための口腔ケアの重要性が注目を集めているが、実は食道や頭 頚部の手術を受ける人、骨髄移植を受ける人、ガンで化学療法を受ける人な どでは、なおさら口腔ケアが重要になる。これらのケースでは、より口腔内 の細菌の影響を受けやすいからだ。
米国ガンセンターの調査によると、化学療法を受けた患者の40%、骨髄 移植した患者の80%、そして口腔領域に放射線治療を行った患者の100% が口腔粘膜の炎症などの合併症を起こすことが分かった。
合併症は、放射線治療により唾液腺が損傷を受けて唾液が分泌されず、ロ の中が浄化できなくなったり、抗ガン剤により免疫力が低下して引き起こさ れる。口腔粘膜の潰瘍や、開口障害、味覚障害、歯周病の悪化などが主な症 状だ。こうした症状自体は致命的なものではない。しかし、手術が成功して も、感染症が重篤化して口の中に激しい痛みを感じるなど、QOL(生活の質) の低下を招いたり、入院期間が長期化するという問題が起こる。
特に化学療法を受ける人の場合、口腔合併症を発症した人の半数で口内炎 がひどく、治療のスケジュールや薬剤の投与量に変更が必要になったという 報告があるほどだ。一方、食道や頭頭部の手術では、術後の飲み込みの機能 が低下しやすく、誤嚥により唾液中の細菌が気管から肺に入り、肺炎を起こ すリスクが高まる。
こうした肺炎や口腔内感染症の予防、症状の緩和のために有効なのが、 手術や治療前の口腔ケアだ。内容は難しいものではなく、PTC(Professional Too仇Cleaning)と言われる歯科衛生士などによる口の中のクリーニングが 基本。PTCにより歯石や日頃の歯磨きでは取りきれない歯垢を除去するこ とで、感染のもとになる細菌を減らせる。それに加え、スポンジなどで口腔 粘膜に付着した細菌を除去するのも効果的だ。また、必要に応じて歯周病や 虫歯の治療も行いたい。
こうした術前の口腔ケアにより、当院では頭頸部進行ガン患者の術後の合 併症は4分の1に減少した。また、口腔ケアを行わないと、口内炎などの影 響で術後の食事を口から持取できる時期が遅れるケースが少なくないが、術 前の口腔ケアにより再開時期を1週間も早めることができた。肺炎のリスク も低下している。
手術が必要な病気やガンと診断されても、すぐに治療を始めなければ手遅 れになるケースは少ない。PTCならかかる時間は1時間ほど。手術を受け る場合には、入院準備に口腔ケアを取り入れてほしい。
(談話まとめ=武田京子=医療ジャーナリスト)

[出典:日経ビジネス、2008/01/28号、大田洋二郎=静岡県立静岡がんセンター 歯科口腔外科部長]

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