【顔面を走る鋭い痛み】

洗顔の際、頬に触れた途端、突然どJビリとした痛みが 顔面に走ったKさん(48歳)。
その後、しばしばこの痛みに悩まされるようになってしまった。

突然、顔面に強い痛みが走るという場合、疑われるのが三叉神経 痛である。特に、顔面のある部分に触れるなどすると痛みが生じるという場 合、可能性はさらに高くなる。洗顔、髭剃り、化粧、食事など日常的な様々 な動作で痛みが誘発されるが、冷たい風にさらされて痛むこともある。
顔の痛みには、群発頭痛や顎関節症、抜歯の影響、副鼻腔の炎症や腫瘍が原 因となるものもあるが、いずれも三叉神経痛とは痛みの性質が異なる。三叉 神経痛の場合、痛みの持続時間が短いのが特徴で、ほとんどが数秒、長くて も1〜2分以内。1日に何回か繰り返すことはあっても、1日中痛みが持続 するということはない。
顔の感覚を脳に伝えるための三叉神経は、脳から出て顔面の深部で、それ ぞれ、額、頬、顎へと3つに枝分かれしている。痛みはこの1つの枝か、隣 り合う2つの枝の範囲で起きることが多い。最初の発症は中年期以降、時期 的には季節の変わり目が多く、特に11月や2月には発症率が高くなる。
この病気の原因の1つに、帯状疱疹ウイルスによる三叉神経の炎症があ る。過去に帯状疱疹を患ったことがあれば、これによる顔の痛みの可能性が 高い。それ以外の場合は、三叉神経が血管や脳にできた腫瘍に圧迫され、そ れが原因で痛みが生じていると考えられる。腫瘍の場合は摘出手術が必要だ。
問診及びMRI(磁気共鳴画像装置)の結果、三叉神経痛の疑いがあれば、 まず投薬治療を試みる。カルバマゼピンという内服薬で症状が軽減、消失す れば、三叉神経痛の可能性が高い。この薬には神経の伝達を抑え、痛みの情 報を遮断する働きがある。多くの患者さんに有効だが、時にふらつきや眠気 といった副件用があり、長期間の服用で肝機能に支障を来すこともあるの で、定期的な血液検査が必要だ。バクロフェン、フェニトインといった薬も 人によっては有効で、これらの組み合わせで投薬治療を行う。
治療には、局所麻酔薬や神経破壊薬を使う神経ブロック療法や、高周波熱 凝固療法もあるが、局所麻酔薬は切れればすぐに痛みが顕在化するし、ほか の2つは1〜2年くらいと効果は持続するものの、顔にしびれ感が残る難点 がある。定位放射線治療で症状が改善する例もあるが、あくまでも対症療法 であり、投薬治療との併用が必要となることが多い。
投薬治療で症状が改善しない場合、根本的治療として袖経への圧迫を取り 除く手術も考慮される。耳の後ろの皮膚を5〜10cm切開し、頭蓋骨に穴を 開け、中で神経を圧迫している血管を移動させる。熟練した医師の手によれ ば、約9割が完治する。術後10日間ほどで退院でき、無理のないデスクワー クなら直ちに職場復帰できる。手術を希望する場合は、専門の外科医のいる 病院で相談してみるとよいだろう。
(談話まとめ:仲尾匡代=医療ジャーナリスト)

[出典:日経ビジネス、2008/01/21号、藤巻高光=埼玉医科大学病院 脳神経外科教授]

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