【「心のクスリ」10年を振り返って】

今回を最後に、充電期間を置くことにした。1997年の2月から毎月1回連 載し、はや10年が経つ。世間で起こる医学的な論評を述べるほどの見識も文才もな い。17年間にわたり、ただ黙々と予防医学を受診者と分かち合った体験を書 くので精いっぱいであった。
読者から「よくそんなに患者さんの話を聞く時間がありますね」と不思議 がられるが、実はこの予防医学は会員制で実施している。だからこそ1回の 診療で、最低20分から多い時は1時間のカウンセリングができたのである。
我々が行う予防医学とは、まず心身両面からの予防医学人間ドックが基本 となる。そこでは早期ガンはもちろんそのほかの病気の傾向を最新方法で徹 底的に調べ上げる。そのデータを基に起こりやすい病気を予測し、具体的な 予防法を考える。それが食事や運動などの生活習慣の改善なのか、高血圧や 高脂血症を抑える投薬が必要なのかなどを検討し、具体的に指導する。
また、受診者の話を開きながら、その人の抱えるストレスを探り、最も効 く緩和法をカウンセリングする。つまり、病気となる要素を受診者と一緒に、 心身両面からできるだけ取り除く。病気の要素が減れば、自然治癒力が高ま る。受診者からは、風邪で会社を休むことがなくなったと感謝される。
その年ごとに重点的に改善する点を決めるため、毎年の指導は微妙に変わ る。こんな形で予防医学を実践していくと、年老いても体は驚くほど元気だ。
当院での予防医学の目的は、以前にも書いた「WORKABLE80」である。 これは、80歳まで現役で、社会で働くための知力・気力・体力を保つという ことである。長生きする目的を、「働く」というより具体的な目標に置いたこと が重要な意味を持つ。なぜなら、ただ100歳まで生き長らえたいという受診 者は皆無であり、ほとんどの人が「WORKABLE80」を望んだからだ。
10年間の連載中に登場してくれた約120人の受診者は、そのほとんどが 今も元気で来院されているが、中には亡くなった方や大病された方もいる。 この「心のクスリ」を読み返してみると、いろいろな思いが去来する。今思 えば、多くの人の協力を得たからこそ、10年も書き続けることができた。
ご愛読いただいた読者の皆さんに、“心のクスリ”となる10カ条を贈って、 最後の号を飾りたい。

1.優秀な指導者より、良き理解者となれ。
2.部下に対して注意はしても、怒るな、怒鳴るな。
3.じっと上司の目を見て話を開け。
4.仕事を好きになる努力をせよ。ただし7割できていれば 上出来と思え。
5.自分の欲望よりも欲求に素直になれ。
6.会社では家族や趣味のことをよく話せ。
7.家では会社のことをよく話せ。
8.自分1人で頑張るな。家族でも友人でも、頼れる者はす べて頼れ。
9.小・中学生、そして高校生の頃になりたかったものや、やりた かったことを時々思い出して書いてみよ。
10.毎日、ちょっとした冒険をせよ。例えば、普段口も聞きたくない嫌な上 司に「いつもご指導ありがとうございます」と言ってみる。

大事なのは、仕事やお金よりも、自分自身を大切にすることである。

[出典:日経ビジネス、2007/12/17号、安岡博之=南赤坂クリニック院長]

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