【“風邪”に抗菌薬は不要?】

残業続きで疲れがたまり、久々に風邪を引いたNさん(51歳)。
鼻水やのどの痛みに加えて、咳や熟も出てきたので受診したが、 抗菌薬を処方してもらえなかった。

風邪は、日常診療の現場では最もありふれた病気である。しかし、 一口に風邪と言っても、その症状は様々だ。鼻水や鼻づまり、くしゃみ、 のどの痛み、咳、痰などに加えて、発熱、頭痛、倦怠感、食欲不振などの全身症 状を伴うこともある。
実は“風邪”とは、1つの病気を指す正式な病名ではない。原因となる病原 微生物の種類に関係なく、上記のような症状を起こすものを一括して風邪と 呼んでいる。つまり、鼻やのどなどの上気道の症状から、気管・気管支など の下気道の症状に至るまで、気道に起こる急性感染症を総称して風邪と呼ん でいるのだ。
風邪の原因の8〜9割はウイルスによるもので、ライノウイルスやコロナ ウイルスなど非常にたくさんの種類がある。こうした原因ウイルスと風邪の 症状の間には、ある程度の傾向や季節性は存在するが、1対1の相関はない。 このため、風邪は症状を基に診断・分類されるのが一般的である。例えば、 米国内科学会が2001年に発表したガイドラインでは、健康な成人に生じた 急性の気道感染症は、非特異的上気道炎、急性鼻・副鼻腔炎、急性咽頭炎、 急性気管支炎の、4つのタイプに大別されている。
Nさんのような典型的な風邪の症状、つまり鼻水やのどの痛み、咳など、 鼻・のど・気管支の3カ所の症状が、特にどれが優位ということもなく複数見 られる場合は、非特異的上気道炎と診断される。発熱や倦怠感などの全身症 状が軽い、いわゆる普通感冒もこの中に含まれる。
非特異的上気道炎に認められる多彩な症状はウイルス感染の特徴であり、 細菌感染の治療薬である抗菌薬(抗生物質)は効かない。このため対症療法 として、鼻水や鼻づまりには抗ヒスタミン薬、咳には鎮咳薬という具合に、 それぞれの症状を軽くするための薬が処方される。非特異的上気道炎はほと んどの場合、3〜7日以内に自然に軽快に向かう。従って、栄養や睡眠を十 分に取り、体力を消耗しないように気をつけることが大切だ。
発症7日以内の非特異的上気道炎に対する抗菌薬投与の有効性は、数多く の研究で否定されている。しかし実際には、細菌感染症の続発を防ぐための 予防目的などで、抗菌薬が処方されているケースは少なくない。明らかにウ イルス感染と考えられる風邪にも抗菌薬が使われることは、効果が期待でき ないばかりか、耐性菌の出現や増加を招く原因にもなる。
抗菌薬の過剰使用で耐性菌が増加すれば、本当に抗菌薬が必要な細菌性の 感染症に抗菌薬が効かなくなるなどの問題も出てくる。風邪に対する抗菌薬 の使用は、A群β溶血性連鎖球菌(溶連菌)による急性咽頭炎など、細菌感 染と診断されたり、その疑いがある場合に限る「適正使用」が大切なのだ。
(談話まとめ:瀬川博子=日経メディカル開発)

[出典:日経ビジネス、2007/12/17号、松村榮久=松村医院 院長]

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