【万病招くアルコール依存症】
Bさん(48歳)はここ数年、毎晩の寝酒が欠かせない。
健康診断で肝機能の数値も悪い。妻からアルコール依存症を疑われ、
自身も心配になっている。
日本人のアルコール消費量は、戦後から1990年代後半まで増え
続け、それに伴いアルコール依存症患者も増えている。現在、日本には240
万人以上の患者がいるというデータがある。また、複数の企業の男性従業員
約5000人を対象に行った調査では約14%がアルコール依存症を含む問
題飲酒者だという報告もあるほどだ。
アルコール依存症は、自分で飲酒のコントロールができなくなる病気であ
る。「昼間から飲んでしまう」「酔いつぶれるまで飲む」「翌日に重要な会議
があっても飲み過ぎて休んでしまう」などがあれば、アルコール依存症の可
能性が高い。また、アルコールを飲まないと手が震えるといった身体症状が
あれば、既に依存症だと考えられる。
適量であれば「百薬の長」として楽しめるお酒だが、ある程度以上の酒を
ある期間以上飲めば、誰でもアルコール依存症になる可能性がある。個人差
は大きいものの、清酒にして毎日3〜4合を、10〜20年間飲むと発症のリ
スクが高くなる。ビジネスマンでは、40代から発症する人が多くなり、最
近では女性の患者も増えている。
患者の多くはアルコール依存症とは自覚しない。それは、肝機能の低下や、
高脂血症といったほかの内科的な疾患に隠れてしまい、それらを引き起こす
元凶であるアルコール依存症には目を向けたがらないからだ。
しかし、アルコール依存症になると、内科的な疾患が増えるばかりでな
く、鬱や自殺、暴力といった精神症状も起こる。ビジネスマンでは、アルコ
ール依存症による奇行がしばしば問題になるが、それよりもっと重要なの
は、この病気が前述の“合併症”により死に至る場合もあるということだ。自
覚症状があり、医療機関で治療を受けた患者でさえ、10年生存率は約60%
と、ガンに匹敵する低さなのだ。
アルコール依存症は、長期の飲酒により脳の神経系が変化して起こると考
えられている。一度この変化が起きれば、二度と元には戻らない。つまり、
アルコール依存症になってしまえば、それを治すには、酒を断つしかないと
いうことだ。
断酒のための治療としては、医療横閑での定期的なカウンセリング、抗酒
剤の服用、自助グループなどへの参加による集団精神療法が3本柱となる。
中でも、同じ経験を持つ人同士の集団精神療法は、将来の自分の姿を仲間に
投影して自覚できる面があり有効だ。
発症すると予後が悪いアルコール依存症は、予防が大切。まずは日頃の酒
量を減らしてほしい。1回に飲む量は、清酒にして2合まで。アルコール度数
の低いものを選んだり、薄めて飲むといい。1週間に2日連続して飲まない
日を作ることも大切だ。また、一定量の酒を飲む人で、不眠、胃腸や肝臓の
調子が悪いといった症状があれば、専門医での受診をお勧めする。
(談話まとめ:武田京子=医療ジャーナリスト)
[出典:日経ビジネス、2007/11/26号、米沢宏=慈友クリニック院長]
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