【遺伝を疑う高コレステロール】
健康診断を受けたNさん(42歳)。
LDL(悪玉)コレステロール値だけが正常範囲を超えて高かった。
体格は中肉中背、生活習慣も至って健康的なのだが…。
コレステロールには動脈硬化の原因となるLDL(悪玉)コレステ
ロールと動脈硬化を抑制する働きをするHDL(善玉)コレステロールとがあ
る。
当然、血清中の値が高くて問題になるのはLDLコレステロールだ。LDL
コレステロール値が一定基準を超えると、動脈硬化を起こす危険性のある高
コレステロール血症と診断される。原因が生活習慣に起因していれば、LDL
コレステロール値のみならずHDLコレステロール値や中性脂肪の値も高く
なる傾向にあり、肥満を伴う患者さんの割合も増える。
ところが、Nさんのように生活習慣に問題はなく、肥満傾向でないにもか
かわらず、異常にLDLコレステロール値が高いという人がいる。健康診断
で指導される食事療法などを徹底しても、なかなか数値は下がらない。この
ような人は「家族性高コレステロール血症」である可能性が極めて高い。
家族性高コレステロール血症の人は、遺伝的にLDLコレステロール値
が高くなる体質を持っている。遺伝率は男女間わず半数程度と、意外に高い。
LDLコレステロール値が高いといって受診する患者さんの5〜10%程度が
この病気だと言われており、その患者数は約500人に1人。決して珍しい病
気ではない。
家族性高コレステロール血症は、10代といった若い頃から徐々にLDLコ
レステロール値が上昇し、全身に動脈硬化を起こす。早期に発見し、適切な
治療が必要となるが、家族性に限らず高コレステロール血症には自覚症状が
ない。健康診断などで血液検査をしない限り、LDLコレステロール値が危
険な域に達していたとしても、動脈硬化を起こし脳梗塞や心筋梗塞、狭心症
など2次的疾病を引き起こすまで、なかなか気づかないのだ。実際、30〜
40代で心筋梗塞や脳梗塞などを起こす患者さんには、家族性コレステロー
ル血症を伴っている人がかなり多い。
通常、高コレステロール血痕の治療では、まず食事療法、適度な運動、飲
酒や喫煙の制限など、生活習慣の改善を試みる。しかし、家族性高コレステ
ロール血症の場合は、これらを徹底しても、なかなかLDLコレステロール
値は下がらない。だが近年では、治療薬の開発が飛躍的に進み、効果的な治
療が可能となった。スタチン系薬剤でLDLコレステロール値を正常値まで
下げ、動脈硬化を防ぐのである。
健康診断の結果でLDLコレステロール値が突出して高く、家族や親戚に
心筋梗塞や脳梗塞といった動脈硬化性疾患を患った人がいる場合は、家族性
高コレステロール血症を疑い、早めに受診することをお勧めする。血液検査
と問診で診断がつくので、時間はさほどかからない。適切な治療を行わなけ
れば、生死に関わる危険な病気に直結することを忘れないでもらいたい。
(談話まとめ:仲尾匡代=医療ジャーナリスト)
[出典:日経ビジネス、2007/11/19号、野崎稔=スイング・ピル野崎クリニツク
院長]
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