【「静坐」のカ】

「静坐(せいざ)は大安楽の門なり」。岡田式静坐法の創始者、岡田虎二郎(1872〜 1920年)はそう言った。ただ座っているだけで心身が安らぎ、病気知らずの 体になる。江戸時代の儒学者、山崎闇斎や貝原益軒らは静坐の必要性を説 き、平田篤胤、平野元良らがその方法を工夫したが、静坐法として完成した のは明治時代に岡田が現れてからだ。
1906(明治39)年、農業改良運動家として活躍していた岡田は突然、妻子 を捨てて山奥で静坐法に開眼する。岡田が難治の病人を静坐によって次々に 回復させると、噂を開いて教えを請う人々が岡田の元へ集まった。1912年 に出版された『岡田式静坐法』はベストセラーとなり、100余版を重ねた。 静坐会の参加者は2万人を超える。
静坐は次のように行う。まず正座の姿勢で座る。膝は少し開き、両足は土 踏まずのところで重ねる。両手は右手を上にして組み、大腿の上に置く。腰 を伸ばし、肩のカを抜いて、首は真っすぐに顎を引いた姿勢で目を閉じる。
そして、次のように呼吸をする。下腹部に力を入れ、鼻から息をゆっくり 吐きながらみぞおちをへこませる。息を吐き切ったら、へこんだみぞおちに 息を吸い込んでいく。しっかりと吐いておけば、自然と息が流れ込んでくる。
静坐で大切なのは、座ることに目的を持たせないこと。健康になろうとか、 無念無想になろうとか、精神統一しようなどとは考えない。岡田は言う。「ま あ黙ってお座りなさい」。ほかのことは考えずに、一心に息を吐きながら腹 にカを入れるだけでいい。そうすれば「大安楽の門」が開く。

[出典:日経ビジネス、2007/11/12号、堀田宗路=医学ジャーナリスト]

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