【セックスレスの背景にあるもの】

今年4月に豪州シドニーで開催され た「世界性の健康会議」によれば、世 界におけるセックスの年間平均回数は106回。一方、日本人は48回で最下位 と発表され、近年話題となっている“セックスレス”の増加を裏づけた。
製造会社を営むU氏(当時43歳)は、33歳から当院の予防医学人間ドック を受けている。U氏は下の子供が生まれてから、4年間ほどセックスレスが 続いていた。理由は上の子供が思春期を迎え、こそこそセックスする情熱も なくなったとのことだった。
だが、妻のN子さん(当時41歳)は、最近生理が長引き、顔が火照るうえに 熟睡感がないと言い、体調不良はセックスレスのせいだと訴えた。U氏に「ど こでセックスしているの?」としつこく開き、浮気も疑っているという。
N子さんの症状は、更年期障害が原因だろう。浮気疑惑に答えずにいると、 会話は極端に減り、無視されるようにもなった。「いっそ離婚しようかと、頭 にきますね」とU氏は言う。「昔は魅力的に見えた妻が、長年一緒にいて、セ ックスの対象としては見られなくなりました。それを無理にすれば、妻を騙 している気がします。私のわがままでしょうか?」とも、悩んでいた。
そこで「夫婦が生涯、お互いにセックスの対象であれば理想的です。でも 男性はナイーブなので、出産に立ち会つて女性を補整化したり、裸や下着姿 で部屋を歩く奥様を見たりすると、家族としてしか見られなくなります」と 慰めた。そして「子育てが終われば、またセックスできる可能性もありま す。ただ、心のつながりが切れていたら、セックスがあっても結局はダメに なります。奥様も更年期障害とセックスレスを乗り越えようとしているので す。冷たくされても、温かく接してください。それには毎日、優しく話しか けるのです。必ずまた夫婦関係が変わりますよ」とアドバイスした。
“セックスレス”と開くと、夫婦ならセックスをして当然、という強迫観念 を感じる男性は多いだろう。だが、男性は心理的に優位な立場にないと、勃 起不全を起こす。平日はビジネスで戦い、週末は子供の世話や家事の手伝い、 さらには妻の顔色をうかがっていたのでは、性的衝動を起こすのは難しい。
N子さんは「セックスレスは私のことをもう愛していない証拠」と考える、 多くの女性の典型だ。ところが、U氏のように、多くの男性は愛と性を切り 離して考える。それがセックスレスに対する捉え方の違いを生み、男女各々 のストレスになる。
17年間のカウンセリング経験から、うまくいっている夫婦には2つのパタ ーンがある。1つは、食事や買い物、旅行など、外で会う機会を多く持つ夫 婦だ。それによってお互いを男女として意識し続けることができる。もう1 つは、仕事上の理由で夫が週に数日しか家にいないなど、夫婦間に適度な距 離を保って暮らす場合である。
U氏はその後も夫婦の会話が少ないと、来院のたびにこぼしていた。その 都度会話を持つよう励ましたところ、3年経って「セックスがあったわけでは ありませんが、半年前から妻がよく話しかけてくるようになりました」と、 明るい笑顔を見せるようになった。

[出典:日経ビジネス、2007/10/22号、安岡博之=南赤坂クリニック院長]

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