【西洋漢方薬「サフラン」】
蘭方(オランダ医学)が江戸に入ってくると、もともとあった漢方はその
勢いに押された。売薬もカナ文字の蘭方由来の薬が人気となった。カタカナ
の名前があると、何となく効きそうな気になるのだ。そのため、オランダか
らもたらされた蘭薬には、名前だけのいいかげんなものも多かった。
ローマ皇帝の侍医アンドロマコスが作ったとされる「テリヤカ」は、万能
解毒薬として有名だったが、本物を見た者は皆無だった。江戸で売られてい
たテリヤカのほとんどが偽物だったからだ。「ミイラ」という、いかにも怪し
げな名の薬もよく売れた。これは江戸は赤坂の生薬屋が安く売り出し、大人
気となったが、病気にも効かず、別に毒にもならない薬だったという。
もちろん、優れた生薬もオランダからもたらされている。「サフラン」がそ
れだ。サフランは花が美しいことから観賞用としても栽培され、クロッカス
の名でも知られているが、今でも医薬品の規格基準書『日本薬局方』に記載
されている、れっきとした生薬である。
蘭学者・杉田玄白の第一の弟子とも言うべき大槻玄沢も、先のミイラとと
もにサフランについての解説を自著『六物新志』に試みている。風邪、喘息、
百日咳、胃痛、更年期障害などに効く。東京大学薬学部の斎藤洋名誉教授は、
サフランの記憶障害に対する効果を、マウスでの実験で確かめている。
つい最近、私はサフランを関節痛の緩和に用いている医師に出会ったばか
りだ。今でもサフランは、根強い人気があるようだ。サフランは生薬を扱っ
ている店なら、簡単に手に入る。
[出典:日経ビジネス、2007/10/15号、堀田宗路=医学ジャーナリスト]
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