【認知症を早期に見つけるには】

Tさん(51歳)は最近、匿親が何度も同じ話をするのが 気になっている。年のせいだと考えて扱っておいてよいのだろうか。
高齢化に伴い、認知症の患者数は年々増加の一途をたどっている。 2005年には約190万人、団塊の世代がすべて高齢者となる2015年には、 250万人に上ると言われる。
認知症は、年相応の物忘れとは違って、脳や体の疾患が原因で記憶や判断 力などの障害が起こる病気である。脳血管性認知症などいくつか種類がある 中で、半分近くを占め今後も増加することが予想されるのが、脳の神経細胞 が急激に減ってしまうアルツハイマー病だ。
アルツハイマー病になると、記憶や判断能力が徐々に低下していき、自立 した社会生活を送れなくなってしまう。残念ながら、現時点では失った機 能を戻すような治療法はない。
だが最近、早いうちから薬を飲んだり、生活に運動や趣味などの活動を取 り入れて、家族など介護者がサポート体制を作ることで、症状の進行を遅ら せることができると分かってきた。そのため、いかに早い段階で疑わしい症 状を見つけるかが、重要な課題になっている。最も期待されるのが、家族に よる気づきだろう。
では、特にどんな症状があった場合に認知症(主にアルツハイマー病)を 疑えばよいのだろうか。認知症というと、徘徊や不潔行為などの分かりやす い異常行動を想像しがちだが、初期にはこうした症状が出るわけではない。
老化による物忘れとの大きな違いは、物忘れは経験したある出来事の記 憶の一部を忘れるのに対し、認知症は出来事の大部分を忘れてしまう点。例 えば、年齢相応の物忘れでは朝食に何を食べたかは大体覚えているが、認知 症ではご飯と味噌汁くらいしか思い出せない。昔の記憶や知識・情報の記憶 は比較的保たれるものの、新しい記憶や自分が何かを体験した記憶は、忘れ やすいのも認知症の特徴だ。
我々の大学の物忘れ外来を受診した家族に、患者の認知症を疑ったエピソ ードを聞くと、「同じことを何度も尋ねる」「物をなくす」「以前は興味があ ったことに関心が薄くなってきた」といった症状が群を抜いて多い。こうし たエピソードがあれば初期の認知症が疑われるため、一度受診を勧めたい。
最近は、気軽に相談できる物忘れ外来が各地に増えており、まずはかかり つけ医に相談し、そこから紹介してもらうのも手だ。診断のためには、本人 や家族への詳しい問診、記憶障害や認知機能の低下を調べるための検査を し、疑わしければさらに、脳の画像検査などを行うことになる。
認知症では、残された脳の機能をなるべく長く維持することが治療の目的 になるため、薬物療法だけでなく、生活習慣の重要性も注目されている。適 度の運動、魚やビタミンE、野菜を含むバランスの良い食事、趣味を大切に する生活などは、認知症を予防したり進行を遅らせるのに効果的だ。
(談話まとめ:未田聡美=日経メディカル)

[出典:日経ビジネス、2007/10/08号、鳥羽羽研二=杏林大学医学部高齢医学教室教授・もの忘れセンター長]

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