【頭痛を治す菊枕】
旧暦の9月9日は、陽の数である9が重なることから「重陽(ちょうよう)の節句」とさ
れてきた。「菊の節句」とも言い、宮中では奈良時代から華やかな観菊の宴が
催された。菊は中国では延命長寿の花として重んじられ、重要な薬の1つで
もあったのだ。菊が庶民の問で、爆発的な人気を得るようになったのは、江
戸時代になってからである。この場合、あくまでも鑑賞が目的である。
菊作りの好きな人が集まって、菊を見せ合い、美しさを競い合う「菊合わ
せ」が盛んになった。1710年代に京都の円山で行われた菊合わせでは、一番
美しかった菊には、花芽1つに今で言うと10万円から30万円の値がつくほ
ど熱狂的だった。
その一方で、菊は頭痛を治す特効薬としても知られていた。特に花から得
られる精油は「菊池」として重用され、島津家秘伝の霊薬「薩摩の菊池」が有
名だった。これを数滴、水に垂らしたものを服用し、頭痛、霍乱(かくらん=暑さに負
けて下痢、嘔吐を繰り返す症状)に用いた。その水を額などに塗布して頭痛
を治すこともあった。この菊池は、今でも生薬を扱っている店なら手に入る
はずである。
頭痛の人がぜひ試してみたいのは「菊枕」だろう。これは、摘んだ菊の花
を陰干しにして、枕に詰めたもの。菊の香りがほのかににおい、頭痛や眼精
疲労に効果が高い。菊花の主な成分はボルネオールなどの精油で、この香り
が頭をスッキリとさせ、気分をさわやかにする。菊枕を作る代わりに、枕に
タオルを巻き、その下に日陰干しにした菊の花を数個入れるだけでもいい。
[出典:日経ビジネス、2007/09/17号、堀田宗路=医学ジャーナリスト]
戻る