【心と遺伝子】

日本統合医療学会の学会誌に、筑波大学名誉教授の村上和雄さんの特別講演「心と遺伝子」が掲載されていた。エンターテインメントが身体機能に与える影響が、分かりやすく解説された興味深い内容だった。
村上さんによれば、遺伝子は親や祖先から受け継いだだけでなく、今現在も働いている。遺伝子が正確に働かなければ、生物は一刻も生きられない。しかし、すべての遺伝子が働いているわけではなく、多くの遺伝子は眠っているという。村上さんは、眠っている遺伝子のスイッチをオンにする1つの要因が精神作用で、精神的ストレスによって遺伝子のオン・オフが調節されているのではないかと推測している。
この仮説を実証するために行ったのが、吉本興業とのイベントだ。平均年齢63歳の2型糖尿病患者25人に、昼食後、初日は専門的で単調な糖尿病の講義を、翌日は講義と同じ時間だけ、漫才コンビB&Bの漫才を聞かせた。被験者を含め、一般人1000人を超える会場は爆笑の連続だったという。昼食前と講義・漫才の後で、それぞれ血糖値を測定し比較した。
その結果、講義後、被験者の食後血糖値は血液100ml当たり平均123mg 上昇したが、漫才の後では平均77mgしか上昇せず、大差が出た。村上さんの実験は、米国糖尿病学会誌に掲載された後、英ロイターを通じて全世界に発表され、大きな反響を呼んだ。
精神的ストレスにも様々あるが、楽しい、快い「陽性ストレス」は、眠っていた遺伝子のスイッチをオンにして、体にも良い影響を与えるようだ。

[出典:日経ビジネス、2007/07/30号、田野井正雄=医学ジャーナリスト]

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