【仕事が原因の肩凝りに対処】
Tさん(35歳)は、毎日遅くまでパソコンを使った仕事に追われ、
くび頚や肩がひどく痛む。イライラすることも多くなり、
対処法を知りたいと思っている。
頸や肩、腕などに痛みや凝り、だるさなどの症状を訴える患者
で、事務仕事や軽作業が原因と考えられる場合を「頚肩腕(けいけんわん)障害」
と呼ぶ。「頚肩腕症候群」と言う場合もあるが、こ
れは仕事との関連がはっきりしない時に使われる。だが、ほぼ同意語と考え
ていいだろう。
最近の厚生労働省のデータによると、男性の気になる症状では、肩凝り
を訴える人が腰痛に次いで多く、その大半が頸肩腕障害と見られる。しかし、
原因は多様であるため、直ちに頚肩腕障害と判断せず、症状を起こす原因と
なっている病気がないかを、まず探ることが重要である。
診断のつく病気があれば、それが病名となる。例えば、頚椎椎間板ヘルニ
ア、肩関節周囲炎、変形性頚椎症、上肢関節変形性関節炎などがある。
こうした診断名がつかない場合、一般的な原因の多くは、作業のやり方に
よるものだ。反復動作、力の入れ方、偏った姿勢などのほかに、作業の継続
時問、作業と休憩時間の比率、仕事を離れてリラックスする時間の不足など
とも深く関わってくる。そのほかに、机やイスの高さ、室内の明るさ、温度
や騒音といった職場環境、人間関係やストレスなど心理的要因も挙げられ
る。さらには、個人の体力や健康状態に影響されることもある。
診断は、以下の手順を踏んで行われる。
@障害に影響していると考えられ
る目や歯などの病気の治療を受けているか、そのほか健康状態について開く。
A触診で患部の温度や硬さを確認するほか、手の力の入り具合や腱反射、ヘ
ッドコンプレッション(頭を上から押す)テストなどで感覚障害や頚、鎖骨
の痛みなどを診る。B]線やMRI(磁気共鳴画像装置)検査を行う。場合に
よっては、骨シンチグラム検査なども実施し、特別な病気が否定された後に、
総合的に判断する。
治療は、そのほかの病気など明らかな原因が考えられる時は、それに対処
する。薬物療法では、消炎鎮痛剤や筋弛緩剤、漢方薬、ビタミン剤などを用
いる。ストレッチ体操などの運動療法を行うことで治る場合も多い。職場環
境の改善のために、事業所の産業医の協力を求めることもある。
同じ姿勢で長時間作業することによって筋肉疲労が蓄積すると、頚肩腕障
害を起こしやすい。それが高じると頭痛やイライラ感、めまいや吐き気、目
のかすみなども引き起こす。職場や作業環境の改善は、予防の重要なポイン
トであると同時に、労働の効率を上げることにもつながる。
なお、日本整形外科学会と日本産業衛生学会では、より的確な診断、治療
を行うため、頚肩腕障害の定義や診断基準の改訂、整備を検討している。仕
事が原因と見られる頚や肩、腕などの痛みに悩む人は、一度医療機関で診て
もらうといいだろう。
(談話まとめ:杉元順子=医療ジャーナリスト)
[出典:日経ビジネス、2007/07/30号、柄瀬浩一=独立行政法人労働者健康福祉機構
東京労災病院副院長・整形外科部長]
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