【不眠症は“昼間”の病気】

Tさん(46歳)は、眠りが浅く、日中はどうもイライラしがちだ。 会社の健康診断で、毎年、血糖値が高めだと言われるのも 気になっている。

Tさんは、どうやら不眠症かもしれない。不眠症については、実 際には眠れているのに「眠れない」と思って心配する人がいる一方で、Tさ んのように、不眠症を放置している人も、中高年層を中心にかなりの数に上 るようである。
不眠症と言えば、「寝つきが悪い」「眠りが浅い」など、夜の就寝時間のみに 関する問題と考えがちだ。だが、不眠症の本質は、夜眠れないために昼間、 疲れが取れずにだるい、憂鬱になったりイライラしてしまうなどの症状が出 てくることだ。つまり、夜だけではなく、昼にも問題が生じてくる病気なの だ、ということをよく認識してもらいたい。
近年、労働環境の変化やインターネットの普及などに伴い、夜更かしをす る人が増えている。そうした中、慢性的な不眠を訴える男性では、糖尿病を 発症する確率が高かったという論文が、2004年に発表されている。また この翌年、5時間以内や9時間以上など、睡眠時間に偏りがあることが糖尿 病発症の危険因子だったとの別の報告もある。不眠症と糖尿病の関連につい て、まだ結論は出ていないとはいえ、Tさんの血糖値が高めということであ れば、ますます要注意と言えるだろう。
なぜ不眠症が糖尿病を引き起こすのか、詳細な仕組みは明らかになってい ない。ただ、睡眠不足が重なり交感神経が過剰に興奮することが、耐糖能(血 糖値を一定に保つ能力)異常に何らかの形で関わっていると考えられてい る。また、このほかにも高血圧や鬱病など、様々な病気と不眠症との関連が 明らかになってきた。
不眠症は軽い病気と考えられがちである。だが、心身ともに悪影響を受 け、QOL(生活の質)を著しく低下させる。このため、夜間の睡眠の改善を通 して、日中を快適に過ごせるようにすることが、不眠症治療における主要な 目的となっている。
そもそも、患者が自覚する不眠症の程度と、実際の睡眠時間に関するデー タは、あまり相関していないことが知られている。しかし、患者が不眠だと 自覚することによって、日中の過ごし方に問題が生じているのだから、気の せいだと済ませるわけにはいかない。
不眠の苦しみが身体にも悪影響を与えていると考え、QOLの改善を目的に 治療に当たる。
以前、われわれの施設を中心とした5施設で、短時間作用型の睡眠導入剤 を不眠症の25人に4週間以上投与する試験を行った。その結果、投与によ って、睡眠の質を示す数値は約2倍も優れた値に改善し、精神的な状態を示 す数値も、明らかに改善傾向を認めた。
Tさんにはまず、不眠症も糖尿病も軽視は禁物であることを理解してほし い。そのうえで、薬物治療により症状が軽くなる可能性もあるので、一度病 院で受診するようお勧めしたい。
(談話まとめ:小又理恵子=日経メディカル別冊)

[出典:日経ビジネス、2007/07/16号、清水徹男=秋田大学精神科学分野教授]

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