【海外旅行と危険な感染症】

この夏、東南アジアへの旅行を計画しているKさん(48歳)。 昨年、日本人旅行者が相次いで狂犬病に感染して死亡したと聞き、 不安になっている。

昨年11月、日本人男性が滞在先のフィリピンでイヌにかまれて 狂犬病に感染。帰国後に死亡するというケースが相次いで2件報告され、注 目を集めた。日本では、1950年代に狂犬病予防法を制定、強力に推し進め ることで、狂犬病の撲滅に成功した。とはいうものの、狂犬病は決して過去 の病気ではない。インドや中国、フィリピンをはじめ、アジア諸国ではいま だに流行している。
狂犬病に有効な治療法はなく、いったん発症すれば、ほぼ100%死亡する。 一歩海外に出れば多くの国に存在し、年間5万人余りが命を奪われている恐 ろしい感染症だ。
また、昨年の騒動による需要増から、現在日本では狂犬病ワクチンが不足し ている。ただ、狂犬病は潜伏期間が長いので、感染してもワクチンと抗狂犬 病ウイルス免疫グロブリンを用いて予防策を適切に行えば、ほぼ完全に発症 を阻止できる。このため、海外でイヌなどにかまれたら、直ちに現地の医療 機関で治療を受けることが肝要だ。
狂犬病にはイヌに限らず、すべての晴乳動物が感染する。コウモリやアラ イグマなどは感染リスクが高いことが知られており、渡航先では野生動物に むやみに触れないよう注意が必要だ。
一方、海外では、蚊への対策も忘れてはならない。例えば、マラリアを媒 介するハマダラカの生息地は、国際化に伴い広がっている。アフリカのサハ ラ以南のほか、東南アジアや南アジア、南太平洋諸島、中南米などにおいても 多くの発生が見られる。
世界保健機関(WHO)の推計ではマラリアは年間3億〜5億人がかか り、150万〜270万人が死亡している。旅行者が帰国してから発症する例も、 全世界で年間3万人程度あるという。
問題なのは、帰国後にマラリアを発症した場合、国内で治療薬を常備して いる医療機関がごく限られていることだ。また、日本では感染者が少ないた めに医師の認識度が低く、治療が遅れて死亡するケースも報告されている。
マラリアにはワクチンのような予防接種はない。予防内服薬もあるが、国 内での入手は難しい。従って、マラリアの流行地域を旅行する場合は、虫よ けスプレーを持参するなど、蚊に刺されないための自衛策が必須だ。なお、 イエカやヤブカと違い、ハマダラカは主に夜間に活動する。刺す時にお尻を 上げるのも特徴なので、こういう蚊には要注意だ。帰国後に、発熱などの症 状が表れたら、速やかに医療機関を訪れ、マラリアの流行地域を旅行したこ とを医師に告げよう。
日本の旅行者感染症対策は非常に遅れている。WHOのホームページにあ る、2007年度版の「海外旅行と健康」(http://wwwwho.int/ith/en/)の報 告書は、英語版だが無料で入手でき、国別の注意点や治療薬の入手法なども 載っているので、参考にしてほしい。
(談話まとめ:瀬川 博子=日経メディカル別冊)

[出典:日経ビジネス、200707/09号、森澤雄司=自治医科大学附属病院臨床感染症センター感染制御部長]

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