【老化現象とカロリー制限】

高齢社会に生きる私は、健康に対する強い関心がある。ゲームソフトの脳 テストでわが身の“ボケ度”を判定しては一喜一憂。胸が痛めば「狭心症」か と疑い、食べ物がうまく喉を通らなければ「食道ガン?」と、いちいち些細な 異変を病気に結びつけてしまう。身に覚えのある方も多いはずだ。
だが、それらに比べて五感の症状については、あきらめが早い。耳が聞こ えなくなった、目が悪くなったといえば「仕方がないね。年だもの」と切り 捨てられ、自らもそんなものか、と納得してしまうのはどうしてなのか。
最近、北里大学耳鼻咽喉科の佐野肇准教授に取材する機会があった。「老 人性難聴を防ぐ手だては?」と聞くと、「難しいですね。ただ、外国でこんな 研究が発表されています」と言って、ある実験を紹介してくれた。
それは、カロリー制限をして育てたマウスとそうでないマウスは、聴力に 差が生じるというもの。研究者のロバートJ・スウィート氏は、後半生にカ ロリー制限をしたマウス群では、聴力低下を抑えることができたと結論づけ ているという。佐野先生はその理由を「カロリー制限によって、聴力に関係 する組織が酸化ストレスから守られるためではないか」と推測する。
カロリー制限が健康に及ぼす効果は生活習慣病だけかと思っていたが、意 外なところにもあるようだ。そのまま人間に当てはめるわけにはいかない が、中年を過ぎて腹八分目を心がければ、音が聞こえず不自由したり、会話 が聞き取れず一家団欒の中で孤独感を味わったりせずに済むかもしれない。

[出典:日経ビジネス、2007/07/02号、田野井正雄=医学ジャーナリスト]

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