【突然の尿意に不本意な失禁】

自宅でテレビを見ていたら、突然尿意を感じ、我慢しきれず 漏らしてしまったTさん(60歳)。
職場でも起きたらと思うと、出社できなくなってしまった。
突然、我慢できないほどの強い尿意(尿意切迫感)を感じ、トイレ に行くまで抑えきれずに、尿を漏らしてしまう。こういった症状を、切迫性 尿失禁と呼ぶ。症状が起きる原因は人によって様々だ。
脳梗塞や脳卒中など脳血管の障害、事故による脊髄損傷や変形性腰椎症な ど脊髄の障害といった中枢神経に疾患がある場合、前立腺月巴大症、パーキン ソン病の一症状として起きる場合、膀胱炎、膀胱ガン、尿路感染など、膀胱 や尿路に疾患がある場合などが挙げられる。こうした病気が原因の場合は、 それらの病気を治療しないと、症状は治まらない。
しかし、切迫性尿失禁で来院する患者さんには、これといった病気を患っ ておらず、原因がはっきりしない人が多い。これらの人たちは、膀胱の機能 が加齢によってうまく働かなくなり、症状が起きると考えられている。
膀胱が正常な範囲外で活動することで、頻尿、尿意切迫感が起きる状態を 過活動膀胱という。切迫性尿失禁も過活動膀胱の症状の1つだ。他人に話し にくい症状ゆえ、自分だけがこの病気を思っているかのように思う患者さん が少なくない。だが、高齢化社会に伴い、その数は増加している。40歳以上 を対象にした調査では、全体の約12%が過活動膀胱であり、60歳以上に 限るとその数は20%以上となる。そのうち約半分が、切迫性尿失禁を伴っ ていると報告されている。
切迫性尿失禁は、日常生活に著しく支障を来すうえ、その精神的ダメージ も大きい。いつ起きるか分からない失禁を恐れ、Tさんのように家に引きこ もってしまったり、失禁の頻度が増えておむつを使用せざるを得なくなり、 その屈辱感で鬱病になることもある。尿意切迫感があるだけでも、会議や車 での移動、ゴルフや宴会などに不安を感じる人も多い。
しかしこの病気は、比較的簡単に症状を改善することが可能である。まず 治療には行動療法として、過剰な水分やカフェイン摂取の抑制、トイレ習慣 の変更といった生活指導と、医師の指導の下、排尿間隔を徐々に延ばし、 膀胱の尿の蓄積量を増やすための膀胱訓練がある。同時に、尿道を締める筋肉 を鍛える骨盤底筋訓練といった理学療法を行うと、相乗効果が期待できる。
上記の訓練だけで症状が改善することもあるが、そうでない場合には、抗 コリン剤による投薬治療を行う。服薬すると膀胱の過活動が抑えられるの で、行動療法などと併せれば、失禁はほぼなくなる。
診断は問診が中心で、時間のかかる検査などは行わない。薬も2〜3カ月 分の処方が可能なので、通院で多くの時間が取られることもない。いずれに せよ症状が出た場合には、ほかの病気の影響の可能性もあるので、早いうち に受診するのが望ましいであろう。
(談話まとめ:仲尾 匡代=医療ジャーナリスト)

[出典:日経ビジベス、2007/07/02号、北原研=日医療法人財団順和会山王病院 泌尿器科部長]

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