【ピロリ除菌後も定期検査を】
胃潰瘍と診断され、ピロリ菌の除菌治療を受けたMさん(56歳)。
その後、胃の痛みがなくなりもう治ったと思ったため、
通院をやめてしまった。
胃や十二指腸潰瘍の治療として胃の中に生息する細菌、ヘリコ
バクタ一・ピロリ菌を除菌する方法が一般的になってきた。胃・十二指腸潰
瘍患者の9割はピロリ菌に感染していると言われている。
従来、潰瘍は一度発症すると再発を繰り返すのが特徴だった。しかし、ピ
ロリ菌が潰瘍の原因であることが分かり、抗生物質を内服してこのピロリ菌
を胃の中から退治する除菌療法が普及してからは、潰瘍の再発率は著しく低
下した。
さらに最近、ピロリ菌に感染していると潰瘍だけでなく、胃ガンになる危
険性が高まることも分かってきた。除菌療法は胃ガン予防にも一定の効果が
あるとして期待されている。
だが、ピロリ菌を退治して症状がなくなれば、もう潰瘍やガンの心配もな
いものと安心してはいないだろうか。実は除菌療法を受けても、胃潰瘍の再
発や胃ガンを完全に防げるわけではないのだ。
我々が山形県内の医療機関で、胃潰瘍や十二指腸潰瘍を理由に受診した患
者約4200人を調査したところ、確かに除菌に成功した患者は失敗した場合に比べて、
潰瘍の再発率は低く、胃ガンの発症も3分の1程度に減少していた。
ところが、発症率は下がったものの、除菌できた1932人の中から8人に胃ガンが発見され、
約10%で潰瘍が再発していた。特に、高齢の男性やもともと深い潰瘍のある人は、除菌し
ても潰瘍が再発しやすい。
こうした現状の中で問題なのは、ピロリ菌の除菌療法の効果が広まるにつ
れ、除菌療法を受けた後、Mさんのように経過観察のための通院をやめてし
まうケースが増えている点だ。
除菌療法を行って、実際に除菌が成功する確率は約80%と言われるが、そ
もそも成功したかどうかの判定にさえ来ない人もいる。潰瘍の原因がなくな
ったという安心感と症状からの解放が、受診をやめてしまう大きな理由だ
ろう。
ピロリ菌の除菌療法が登場する前は、潰瘍は「繰り返す病気」であったため、
内視鏡で検査を定期的に受ける患者が多かった。その結果、胃の状態を一定
の頻度でチェックでき、生命に関わる危険の少ない段階で胃ガンを見つけら
れることも多かった。
だが、除菌して定期的な検査を受けなくなると、かえって胃ガンの発見が
遅れる危険性がある。実際、除菌後、定期検査を受けずに胃ガン発見の機会
を逃し、進行してしまってから見つかった患者もいる。
ピロリ菌の除菌は、潰瘍の再発予防に加え、胃ガンの発症リスクを減らす
のにも有効だと考えられているが、万能ではないことも覚えておきたい。症
状がなくなっても油断せず、1〜2年に1回は定期的に医療機関を訪れ、検
査を受けてほしい。
(談話まとめ:未田聡美=日経メディカル)
[出典:日経ビジネス、2007/05/14号、間部克裕= 山形県立中央病院 内科医長]
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