【稀ではない小腸の病気】

Tさん(43歳)は、時々起こる下血に悩まされてきた。 胃と大腸の内視鏡検査をしてもいまだに原因がよく分からず、 とても不安になっている。
胃の内視鏡検査でも大腸の内視鏡検査でも病気の原因が分からな かったということは、Tさんは小腸の病気かもしれない。こうした場合にT さんに勧められる検査が「ダブルバルーン内視鏡検査」である。
ダブルバルーン内視鏡は、名前の通り、内視鏡の先端に2つの風船がつい た構造だ。一般的に、消化管の観察に使われる内視鏡は柔らかいチューブ状 だが、ダブルバルーン内視鏡は、柔らかいチューブとそれを覆う透明なカバ ーの二重構造になっている。
チューブ本体にもカバーにも、その先端に風船がついている。通常の内視 鏡で消化管の中を観察する時には、チューブを奥へと押し込むような形で検 査を進めていくが、ダブルバルーン内視鏡検査では、風船を交互に膨らませ たりしぼませたりしながら、チューブとカバーを交互に消化管の中へと進め ていく。2つの風船を利用して、いわば“尺取り虫”のように消化管の中を 奥へ奥へと進むイメージだ。
ダブルバルーン内視鏡が市販されたのは2003年だが、それまで小腸を内 視鏡で観察するのは非常に困難で、検査には長い時間がかかっていた。ダブ ルバルーン内視鏡なら、腸管が細くなったり途中で癒着しているといった問 題がなければ、口からと肛門から、それぞれ約1〜2時間の検査の組み合わ せで、全長7〜8mある小腸がほぼすベて観察できる。患者にかかる負担も 通常の内視鏡検査とさほど大差ない程度にとどまる。
従来の検査法では原因が分からなかった消化管出血のうち、ダブルバルー ン内視鏡検査により7割程度まで原因が特定できる。しかも、検査と同時に、 内視鏡の先端から専用の器具を出し、出血している血管を止血する治療を行 うことも可能だ。
小腸の腸管が狭くなり腹痛などを起こしていた場合も、従来はその部位が 検査で特定できず、開腹手術せざるを得ないことがあった。ダブルバルーン 内視鏡の登場で、風船に似た専用の器具で腸管を中から広げる、患者の負担 が軽い治療が可能になった。また、小腸のガンも早期発見が難しかったが、 ダブルバルーン内視鏡検査で専用の器具を用いて組織を採取することで、確 定診断に至るケースが増えている。
これまで小腸の病気は稀なものだと考えられてきたが、それは、病気を見 つけられなかっただけだ、ということが明らかになってきた。今年3月には カプセル内視鏡が医療用具として認可され、さらに小腸の病気が高い確率で 発見されると予測される。
ダブルバルーン内視鏡は、既に全国200施設以上に導入されている。恐ら く、大学病院の多くで検査を受けられるはずだ。小腸の病気が疑われた場合 には、ぜひ一度、ダブルバルーン内視鏡検査を受けてみてほしい。
(談話まとめ:小又理恵子=日経ドラッグインフォメーション)

[出典:日経ビジネス、2007/05/07号、山本博徳=自治医科大学消化器内科 助教授]

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