【頭を良くするおからのカ】
豆腐屋七兵衛は、芝・増上寺の貧乏長屋に暮らす若者に感心していた。若
者はひどく貧乏だったが、朝から晩まで勉学に励む日々。「世の中を良くし
たいから勉強をしている」と言う。ますます感心しておからをタダで届ける
ようになった。若者は涙を流して、さらに勉強に励んだ。若者はいつからか
「おから先生」と長屋で呼ばれた。
ある日、七兵衛が長屋に出かけると若者がいない。長屋の人に若者の名前
を開くと、「確かお灸が辛いとか言ってたな」。それっきり七兵衛は若者の
ことを忘れていた。その後、豆腐屋が火事で焼け、七兵衛が困っていると大
金が届けられた。送り主は柳沢吉保に認められ、大出世を遂げた新進の儒学
者、荻生徂徠(おぎゅうそらい)。あのおから先生である。
これは三遊亭圓窓の落語「徂徠豆腐」の話だが、実は似た逸話がある。
徂徠の儒学者への道を開いた原動力は本当におからだったのかもしれない。
おからは大豆の搾りかすにもかかわらず、脳の記憶力を高めるホスフアチジ
ルコリン(レシチンとも言う)が豊富に含まれているのだ。
記憶に関連した脳内物質としてアセチルコリンがある。極度の記憶障害を
訴えるアルツハイマー病では、この物質が欠乏する。アセチルコリンを作る
にはコリンという物質が欠かせない。その前駆物質がホスフアチジルコリン
である。ネズミにコリンを与えたところ、記憶力が良くなったという報告も
ある。おからを食べてコリンを増やせば、脳内のアセチルコリンも増加し
て、実際に頭が良くなることも考えられるのである。
[出典:日経ビジネス、2007/04/23号、堀田 宗路=医学ジャーナリスト]
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