【「WORKABLE 80」の勧め】

永遠に生きることは、太古の昔から人類の夢であろう。だが、寝たきりで 長生きしても意味がないと考える人もいる。当院の予防医学は、単なる長生 きではなく、「WORKABLE 80」を目的としている。これは「80歳まで現役 で働けるだけの心と体と気力を保つこと」を意味する、当院の造語である。
初めは100歳まで生きることを目標にしていた。しかし、受診者はそれを 望んでいなかった。「100歳まで生きるより、予防医学で80歳まで現役で 働けて、ころっと逝けたら最高ですね」と言う人が圧倒的に多かった。
WORKABLE 80を目標に、予防医学メニューを熱心にこなす2人の方がい る。1人は公認会計士のM氏(78歳)。会計事務所の現役所長だ。6年前、72 歳で当院に初めて来られた。他院で降圧剤をもらっていたが、高血圧や肥満 がコントロールできず、頭痛や腰痛に悩まされていた。当院で改善点を徹底 的に調べて指導する。また、ゴルフが好きだというので、時間が許せば毎 週、カートには乗らずにラウンドするよう勧めると、みるみる顔色が良くな った。半年で体重が5kg減り、血圧も正常値に入った。
それから1年後、M氏はO氏を連れて来院した。聞けば2人は同じ年で、 30年来の伸だという。M氏がO氏の会社の会計を監査しているだけでな く、ゴルフや家族ぐるみでの食事など、公私ともに良いおつき合いをされ ていた。「先生、このOさんも元気にしてやってください。私が元気になっ たので、どこに行っているんだってう るさいんですよ」。
O氏は63歳で脳梗塞を患い、以来息子たちに事業を任せ、家に引きこも りがちだった。ややろれつが回らず、足も引きずっており、脳梗塞の再発が 心配だった。O氏も他院で投薬を受けていたが、ヘモグロビンA1cが正常 値を超え、重度の糖尿病であった。
O氏は当院の予防医学メニューを必死に実践してくれた。1年も経たない うちに顔の色つやが良くなり、ゴルフに毎過行けるくらい元気になる。息子 たちに任せたはずの店を回り始め、いくつかの店舗をリニューアルした。2 年半後にはさらに回復し、連日のゴルフも楽しめるようになっていた。
するとより事業欲がわき、O氏は新事業を起こすことを決意。T県で既存 の公衆浴場を買い取り、深さ1500m以上掘削し、温泉を掘り当てた。予測 できていたとはいえ、数千万円に上る投資には度胸がいる。「先生に診ても らって糖尿病も良くなってきたし、元気になって80歳まで働ける見通しが できたからこそ、投資したんですよ。ただ遊んでいたら頭にも良くない、仕 事をしろって、先生もおっしゃったじゃないですか」。O氏は週に4日はT県 まで出張し、泊まり込みで温泉施設の立ち上げを指導しているという。
M氏とO氏には、同世代の共通の友人が6人いた。ところが、次々と亡 くなり、M氏が初めて来院された時には、O氏と2人だけになっていた。 M氏は独りぼっちになるのを恐れ、O氏を連れてこられたのだという。
2人は励まし合いながら、当院に通っている。彼らがWORKABLE 80を 迎えるまで、あと2年を切った。

[出典:日経ビジネス、2007/04/02号、安岡博之=南赤坂クリニック院長]

戻る