【携帯端末依存にご用心】

インターネットの株取引にはまったYさん(47歳)。パソコン上だけでなく、 移動中も携帯端末を手放さない。ある日、手首と指に違和感を覚え、 鈍痛が取れなくなってしまった。
Yさんの手首や指の痛みは、携帯端末の普及とともに問題視され ている「反復運動過多損傷(RSI=RepetitiveStressIrjury)」と呼ばれる 症状だろう。携帯端末を使ってキー操作をしたり、メールを打ったりするた めに、親指をはじめ、ほかの指のつけ根や第2、第3関節に痛みを感じる、 いわゆる腱鞘炎である。
手首部分から5本の指の先まで分かれている手の腱は、それぞれの関節に ある小さなトンネル状のもの、すなわち腱鞘の中を行き来している。腱鞘炎 とは、手や指を使いすぎたことにより、腱や腱鞘が炎症を起こして腫れ上 がり、動くたびに摩擦が起きて、痛みを感じる病気だ。
中高年や女性に多く見られるのも特徴で、ホルモンバランスの乱れが関係 している。また、加齢により靭帯が硬くなってしまうことも一因だ。
以前は男性なら大工や整備工、女性なら主婦やキーパンチャーの人などに 多く見られる職業病として知られ、主に親指、中指、薬指のつけ根や手首 に症状が表れることが多かった。
しかし、最近の患者さんの傾向は、一般のパソコン好きな中高年層に広が っている。パソコンユーザーの多くは、マウスをクリックするのに人さし 指を使っているため、今まで腱鞘炎とは縁のなかった人さし指の第2関節か ら第3関節の間に腫れや痛みが表れるのだ。私はこれを「パソコン腱鞘炎」 と呼んでいる。
加齢とともに筋肉が硬くなったシニア層では、筋肉の炎症が残りやすく、 鈍痛が走ってから、初めて気にかけるため、症状が進行してしまっているケ ースも少なくない。
治療の方法は、まずは痛みや腫れのある患部を冷やすことだ。1日15分ほ ど、患部に氷を当てるとよい。それを1週間程度続けてみる。氷を使って冷 やすのは、炎症を抑えるためと、氷温で患部の細胞を活性化し、自然治癒力 を促すためである。
また、冷湿布を張ったり、消炎鎮痛成分の入った薬を塗ったりするのも、 応急手当てにはよいだろう。さらに、割り箸や食べた後のアイスキャンデー のスティックなどを添え木にして固定し、指が屈伸運動をしないようにする のが望ましい。
痛みが強い場合は、市販薬の消炎鎮痛剤を服用し、3週間経っても改善が 見られない場合は、“手の外科”など専門医がいる病院で診察を受けるのがよ いだろう。症状が悪化した場合、注射や切開手術などの治療法もあるが、で きれば避けたい。
親指や手首に多い「反復運動過多損傷」と、人さし指に多い「パソコン腱 鞘炎」は、明らかにIT(情報技術)化社会における現代病と呼べる。症状があ まりひどくならないように、うまくつき合っていくことも、現代人には必要 なのかもしれない。
(談話まとめ=江木園貴=プレゼランス)

[出典:日経ビジネス、2007/04/02号、山口利仁=東京手の外科・スポーツ医学研究所 高月整形外科 理事長]

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