【健康診断のデータを生かそう】

Aさん(55歳)の同僚は、健康診断で高血圧が分かった。 だがその後、診察や再検査で病院へ行った様子もなく、 気にかかっている。
新年度を迎えると、定期健康診断が行われる。労働者の健康診 断は、働く人の職場での安全と健康を確保するために定められた労働安全衛 生法や労働安全衛生規則が、事業主に義務づけているものだ。
健康診断の中身は、身長・体重の計測、採血や血圧測定、心電図検査、胸 部のレントゲン撮影など。事業所の方針で、年齢によって胃]線検査や便潜 血、腫瘍マーカー検査などが追加されることもある。検査を受けた日からお よそ1カ月で、結果が受検者(健康診断を受けた人)に返される。
そこにはたくさんの数値と基準値が並んでいる。もし、検査結果が基準値 の範囲を超えていても、直ちに異常となるわけではない。健康診断を実施し た医師は、問診の内容(自覚症状の有無や医療機関の受診歴など)や診察所 見を参考に、検査項目ごとに「異常なし」「要観察」「要治療」の判断をする。
ところが、この‘健診データ’は、受検者に活用されていないのが現状だ。 厚生労働省の調査から、以下のような構図が浮かび上がってくる。健康診断 の受検対象者を100人とすると、受検者は80人を上回る。そのうちの32人 に何らかの所見(検査で正常ではないと判断されたもの)が見られるが、約 20人は自覚していなかった。自覚のあった人でも、医療機関を訪れた人は 6割程度だ。
また、糖尿病、高脂血症、高血圧の疑いがある人は、健康診断後の受診率 が低迷している。ちなみに、受診しない理由を調査したところ、「自覚症状 がない」「(疾患は)大したことはないと思っている」が上位を占めていた。
せっかく受けた健康診断の結果を、そのまま放置しておくのでは意味がな い。特に、心筋梗塞や脳卒中など心臓や脳血管の病気で亡くなる人が増えて おり、30代の死亡者では6.5人に1人、40代の死亡者では5人に1人となって いる。心臓や脳血管の病気を引き起こすと、その後の生活の障害も大きい。 脳卒中を起こした人が職場に復帰する率は30%未満だと言われている。
心臓や脳血管の病気を引き起こす危険因子には、肥満(内臓に脂肪が蓄積 した内臓脂肪型肥満)、高血圧、高血糖、高脂血症がある。これらが複数あ る状態は「メタポリックシンドローム(代謝症候群)」と呼ばれ、危険因子の 数が増えるほどリスクが高まる。
2001年には、労災保険法の改正に伴い、定期健康診断で内臓脂肪型肥 満、高血圧、高血糖、高脂血症のすべてに所見が見られた場合、より詳しく 調べる2次検査の費用や特定保健指導の費用が労災保険から給付されるよう になっている。
健康診断で病気の疑いが見つかった場合には、手遅れになる前に医療機関 を訪れ、治療を始めるなど早めに対策を取ってほしい。
(談話まとめ:中西 奈美=日経ドラッグインフォメーション)

[出典:日経ビジネス、2007/03/19号、久保田昌詞=大阪労災病院 勤労者予防医療センター部長]

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