【高脂血症の新しい判断基準】
健康診断で高脂血症を指摘されたTさん61歳)。
総コレステロールが240mg/dLで、基準値220mg/dLを超えている。
放づておいてよいものだろうか?
高脂血症の診断には、一般的に総コレステロール(TC)の値が使
われてきた。しかし、厳密に言うと、TCの億だけで異常があるとは判断で
きない。
TCが問題となるのは動脈硬化が起こりやすくなるためだが、最近になり、
TCそれ自体よりもTCに含まれるLDL(悪玉)コレステロール(LDL-C)が動
脈硬化の進展に深く関わっていることが分かってきた。反対に、HDL(善
玉)コレステロール(HDL-C)には動脈硬化を予防する効果があると考えられ
ている。
日本人にはHDL-Cが高い人が多いため、それらを一括して測定した数億
であるTCよりも、LDL-C値を把握することが動脈硬化の予防には大切なの
である。とはいえ、TCは既に一般的な検査項目として健康診断などで活用
されている。また、大変残念なことではあるが、TC値が高いだけで安易に
薬物治療を行っている医師が少ないとはいえ存在するのも事実である。
日本動脈硬化学会では今年4月、医師向けに新しい「動脈硬化性疾患診療
ガイドライン2007」を発行する予定だが、こうした現状を鑑み、これまでの診
断基準の項目にあったTC(220mg/dL以上)を削除。LDL-C(140mg/dL以上)、
HDL−C(40mg/dL未満)、中性脂肪(150mg/dL以上)を見たうえで、
原則、LDL-C値で診断するよう基準を変更することにした。
また、この基準が「薬物療法の開始基準を表記しているものでない」旨も
明示する。なお、「高脂血症」という名称では低HDL-C血症を説明しにくい
ため、新ガイドラインでは「脂質異常症」に改める予定だ。
実際の治療については、LDL-Cが高いことのほかに、個々の患者さんが
それぞれ有する冠危険因子(冠動脈疾患の原因となる冠動脈硬化症を促進す
る因子)の種類や数によっても、目標とする脂質の値が異なってくる。冠危
険因子には@加齢(男性45歳以上、女性55歳以上)、A喫煙、B高血圧、C
糖尿病、D冠動脈疾患の家族歴、E低HDL-C血症などがある。
例えば、LDL-Cだけが高くほかの冠危険因子を持たないような人であれ
ば、心筋梗塞や脳卒中などの動脈硬化性疾患の発症リスクは低いので、薬物
療法よりもむしろ生活習慣の改善に重きを置くことになる。
一方、危険因子が複数重なると、動脈硬化性疾患の発症率は一気に高まる
ことから、薬物療法も視野に入れたより積極的な治療が求められる。それと
同時に、危険因子を一つひとつ取り除く治療も必要になる。
特に、喫煙は動脈硬化性疾患の発症リスクを増加させる。すべての人に共
通して言えることは、喫煙習慣のほか食生活や運動習慣などを含めた生活習
慣の見直しを、いま一度行ってほしいということである。
(談話まとめ:井田恭子=日経メディカル)
[出典:日経ビジネス、2007/03/12号、寺本民生=帝京大学医学部 内科教授]
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