【黒焼きの不思議】

漢方では、生薬を加工することを「修治(しゅうじ)」と言う。修治には「切る」「砕く」「煮る」「練る」など様々な方法があるが、中でも得体の知れないのが「黒焼き」である。例えば人間の毛髪を黒焼きにした「乱髪霜(らんばつそう)」。髪を黒焼きにして服用するなどと聞くと、思わず怖じ気をふるう人もいるだろう。黒焼きにはトンボ、ナメクジ、カタツムリなど、不気味な物が多く、怪しげな薬として今では見向きもされなくなった。
とはいえ、薬効がないわけではない。乱髪霜は血尿の特効薬として有名だ。黒焼きの中には「医者いらず」の異名を取る物もある。問題は黒焼きの研究がほとんどなされておらず、いまだになぜ効くのかが分からないことだ。
最近になって、風邪の民間療法として知られる梅干しの黒焼きに、ムメフラールという成分が見つかった。これは梅を加熱することで、クエン酸と糖の一部が結合してできる成分で、梅干しの黒焼きにしかない。この成分に血液をサラサラにする働きがあるとい う。これだけで梅干しの黒焼きの効果を説明したことにはならないが、黒焼きによって薬効が生まれることの何らかの証左にはなるだろう。
梅干しの黒焼きは火鉢の温灰(ぬくばい)に梅干しを埋めて、種子まで黒く焼いた物。 火鉢代わりにフライパンに2個の梅干しを乗せ、茶碗で蓋をし、小さな火で加熱すると、程よく炭化した黒焼きができる。梅干しの成分がタール状になり、炭に吸着するようにする。それを湯飲みに入れ、箸でかき混ぜながら、熱湯200ccを加え、その上澄み液を飲む。風邪の引き始めにいい。

[出典:日経ビジネス、2007/01/29号、堀田宗路=医学ジャーナリスト]

戻る