【私の遺言】

私がまさかボケることはないと思われるかもしれませんが、先のことは私にも分かりません。
万一のときのために、家族や、私の介護に当たってくださる人へ、次のようなことを今からお願いしておきたいと思います。
                                                ※
私が医者だったことを、まず忘れてください。私は過去とは別の人間になってしまったのです。「しっかりして!」と大きな声で怒鳴られても、ただ恐ろしいのでおびえるだけです。
ですから、私に何か言いたいことがあれば、笑顔で優しく、簡単に話してくださいね。
きっと私は変なことを言うと思います。例えば「蛇がいる」といったら、「じゃあ、追い払いましょうね」と、私の要求をまず受け入れてください。「ごはん、まだか」と言ったら、「おなかが空いたのね」と優しくクッキー一枚くれれば満足です。
それから、私は何をやってもすぐに忘れる病気の人だと思ってください。もちろん、目の前の人が誰なのかも分りません。
ただ、その人が私の目をしっかり見て、優しい声で話しかけてくれたら、きっとその人が大好きになります。
ほかの人が言うことを嫌がっても、その人なら聞こうとします。笑顔が好きだからです。
私の頭の中はモヤーッとしています。だから、とても不安で一杯なのです。夜は正直、何か出てきそうで、とても怖いのです。そのために、騒ぐときがあるかもしれません。
そんなときもしからないで、優しく肩を抱いてください。
私の心が寂しいとき、私が若い頃に大好きだった曲を聞かせてください。どんなに知性が破壊されても、その分、感性だけは豊かなのですから。
私は、こうしたことをごく自然にしてくれる心優しい人に囲まれて、余生を過したいと願っています。

(出典:北海道新聞、2006/12/07、
「ボケないための生活術」医学博士・湘南長寿園病院院長、フレディー松川)

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