【腹のあんまで“仙人の体”】

1927(昭和2)年10月23日、文豪の永井荷風は朝から元気がなかった。その日の荷風日記(『断腸亭日乗』)には次のように記されている。
「余本年軽井沢に遊び山中の冷気に犯されてより、健康何と云うことなく平生のごとくならず、余命いくばくもなきようなる心地するなり、来年は五十歳なり、願わくば今一年生きのびたし」。
荷風は満年齢であと1ヶ月ほどで48歳だった。その若さで、何と気の弱いことか。
書いてはいないが、おそらく腸の調子がよくなかったのだろう。若い頃から腸の弱かった荷風は、主治医から「腸には気をつけてください。下手をすると命にかかわる」といわれていて、自分は50歳くらいしか生きられないと思い込んでいたようだ。
しかし、その荷風が主治医より長生きをして、『つゆのあとさき』『墨*東綺譚』などの代表作を次々に書いていくのだからおかしい。腸の働きが弱い人は体力に自信がないので、健康に気を配り、結果的には長命となることが多い。荷風も79歳まで生きた。
そこでぜひ試したいのが“仙人の体を作る”と言われる、中国の導引術「按腹(あんぷく)」。わかりやすく言えば腹あんまである。へそを中心にして手のひらで腹を時計回りに撫でてこすったら、左手でも同様にこする。これを1日1回、毎日続ける。
長く続ければ便秘、下痢、虚弱体質を改善して腸を強くする。江戸時代には、体を揉むあんまより按腹の方が益が多いとされていた。また、按腹は地位の高い術者にしか許されなかった。それほど重要とされていたのだ。
(注)墨東の墨は、正しくは「山水(さんずい)偏に墨」です。

(出典:日経ビジネス、2004/03/08号、堀田宗路=医学ジャーナリスト)

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