【脳を鍛える:インタビュー(4)】

音読・計算は脳の高度な作業

――普通の大人の脳も、音読や簡単な計算で効果が上がるのですか。
(川島)ええ。私自身の脳も、一桁の足し算で、もう、わんさか働くことがわかって います。そして、音読は計算よりもさらに広範囲の脳が活性化されます。

――なぜ、そのような効果が出るのでしょうか。
(川島)現段階ではその理由を完全に明らかにするのは難しい。まだ仮説の段階です が、おそらく文字や数字を読んだり、暗唱するだけで、脳が活発に働くのは、人間の 発達の歴史が遺伝子に刻まれているからではないかと考えています。

――発達の歴史とは?
(川島)定説では人類の祖先は約5万年前に登場したといわれております。彼らが文 明を創り得た最大の革命は、コミュニケーションツールとしての言葉を持ったことで す。これで集団のコミュニケーションが取れるようになり、集落をつくれたことが、 サルと分かれた最大の要因でした。
 そして次の革命は数の概念を持ったことです。高等な類人猿でも、一つ、二つくら いまではわかっても、あとは、いっぱいあるという認識が限界です。つまり人が他の 動物と違う点は、言葉と数の概念を持つことができたという二点だと考えられます。

――なるほど。言葉や数を数えることは非常に高度な作業なのですね。
(川島)そうです。また、私たちは実は二種類の言語を持っています。一つは音韻情 報で、これは音で耳から入ってきます。出力するときは口から声にして出します。こ れに対して意味情報、文字情報は見ることで得られます。入力は紙に書いたものを見 る。出力は手で文字を書くことになります。
 音読が脳の活性化に最も効果があるのは、意味情報を目で見て、口から音韻情報で 出力しているからだと考えられます。つまり二のシステムを使っている。
 例えば写経ならば、意味情報を入力して、意味情報を出力している。また、普通に 会話する場合は、音韻情報で入って、音韻情報で返すので、これらは一つのシステム しか使いません。

――音読は二つのシステムを使うからこそ効果がある。
(川島)同じ意味で脳を働かせるのに有効だろうと考えられるのが、耳で聞いた音韻 情報を書き取るディクテーションです。これは入力が音韻情報で、出力が意味情報な ので二つのシステムを使うことになります。
 私たちの脳は情報処理に特化した器官であり、入力情報があって、それを処理して 出力するという完結したループを描いて、初めて活発に働くのだろうとも考えられま す。音読は文字の情報を見て、それを頭の中で処理して口に出すので、まさに完結し た情報処理だと考えられます。

(出典:月刊致知、2002年7月号)

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