【脳を鍛える:インタビュー(3)】
※マニュアル化によって、このシステムを家庭でも
――脳の機能化が回復した結果、どういう効果が出てくるのでしょうか。
(川島)学習を受けた方が、自宅に帰ると、そのご家族から「昔のおじいちゃん、おばあちゃんに戻ってきた」という声が聞こえてくることが多いようです。
最も顕著な例を挙げると、入所してきたときにはオムツなしでは暮らせなかった、いわゆる垂れ流しの人が、1ヶ月学習しただけで、尿意や便意を介護の人に伝えられるようになりました。寝たきりでしたから、足腰の筋肉が弱いので、介護士が一緒にトイレについていかなければならず、一人で用を足すというわけにはいかないのですが、これは大きな変化です。
――音読や計算がもたらす効果はそれほど大きい。
(川島)ただし、音読や計算を通してコミュニケーションが増えた点も影響している
とおもいます。
私たちは「高齢者だからできない、わからない」と決め付けて、家の中で何もさせ
ず、独りでほったらかしにしてしまいがちです。人との触れ合いが少ないんです。と
ころが、入所して学習するようになると、介護士とのやりとりが増えて、きっちりコ
ミュニケーションを取るようになる。つまり総合的な作用によって、劇的な変化が起
きるのだと考えています。
――すると子どもの教育でも、独りでテレビゲームをさせるより、母親と一緒に学習
するなどで接触を持つのがいいわけですね。
(川島)それはとても大切なことです。適当な音読の教材をつくって、一緒に読んで
あげる。そして「ここの読み方はこうですよ」と教えてあげるような時間を、一日に
20分ほど持つだけで、子どもはぐんぐん伸びていきますし、同時にお母さんの脳も
伸びる(笑)。
――なるほど。この研究のゴールはどこになるのでしょうか。
(川島)第一段階として、高齢者と介護者が、どんな教材を使って、いかにコミュニ
ケーションをすれば、脳を元の状態に戻すことができるのかという方法をマニュアル
化して発表したいと思っています。
さらに、将来的にはそのシステムを家庭に適用できるものにしたい。老人介護で困
っているのは、痴呆の老人を抱えている主婦です。そうした方に対して、脳の活性化
を促す教材をリリースできれば、大きな福音になるだろうと考えています。この計画
は3年後をめどに進めています。
(出典:月刊致知、2002年7月号)
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