【脳を鍛える:インタビュー(2)】

※ 算数・国語ドリルを一日20分、3ヶ月で痴呆症が改善

(川島)そういった基礎的な学習が脳にいいのであれば、これはリハビリテーションに使えるんじゃないかというアイデアが浮かんできたわけです。事象を調べてみると、全国で数千人の障害児教育を手掛けている公文では、障害児に積極的に国語や算数の教育を行ない、大きな効果を上げていることがわかりました。

――公文教育研究会では、障害児教育もしているんですか。
(川島)宣伝をしていないので知られていないのですが、何千人にも上る自閉症や学習障害、ダウン症のお子さんなどの教育をしています。
実は医学部では「自閉症の子どもには学習をさせてはいけない」と教えられました。 これは、例えば自閉症児に算数を教えると、それに熱中するあまり、ほかのことに目を向けなくなり、ますます自閉傾向が強くなるという説に基づいたものです。
しかし実際にそのような子どもに音読や計算をさせると、国語や算数ができるように なるという以前に、「他人と話が出きるようになった」とか「挨拶ができるようになった」など、コミュニケーション能力が改善されるのです。
自閉症の子の一番の問題は何かというと、極端な言い方をすれば他人とのコミュニケ ーションの障害なんです。それから「自分で着替える」「自分でご飯を食べる」といった身辺の自立性の問題。この二つの能力が身につけば、社会に出ても何とか一人で自活していける。そうした能力が、音読や計算の学習で伸びることがわかったんです。

――思いがけないことが、脳の中では関連しているんですね。
(川島)コミュニケーションや自立といった機能は、脳の中でも前頭葉と呼ばれる部分の機能です。脳にはたくさんの場所があって、異なった機能を分担しているのですが、なかでも「脳の中の脳」といわれているのが、前頭葉の前頭前野と呼ばれる、額の後ろの部分です。ここが脳全体に命令を出していますから、おそらく心の源泉であるとも考えられます。

――音読や簡単な計算が、その前頭前野を活性化させるのですか。
(川島)ええ。そういう事実がわかったものですから、リハビリに応用してみようとい うことになりました。
 昨年の9月から、研究の主旨に賛同してくれた福岡県の老人看護施設の協力を得て、77歳から98歳までの高齢者44人を二つのグループに分け、一つのグループには小学校低学年レベルのドリルを一日20分間、国語10分、算数10分のプログラムをやってもらい、別のグループは週2回だけ学習してもらいました。
 3ヶ月後、全員に前頭葉の機能を調べる検査をしてみると、全体の7割に機能向上が見られました。また、痴呆の度合いを見るテストでも、点数が向上したのです。この事実だけでも、大変なことなんですよ。
 痴呆症においては精神機能が下がることはあっても、上がることは絶対にないと考えられていたんです。現状よりも悪くしないことが、医学の目標でした。これを簡単な方法で右肩上がりにできるという証拠がかなり固まってきた意味は大きい。

――これまでの医学の常識を覆すものだったわけですね。
(川島)さらに付け加えると、毎日学習するグループは6ヶ月後も伸びていますが、週2回のグループは、3ヶ月間は伸びましたが、あとは横ばいです。

――ああ、毎日続けるということが大切なんですね。
(川島)研究はまだ始まったばかりです。現在はさらに効果的に脳を鍛え、痴呆から回復させることができる方法を見つけ出そうとしているところです。

(出典:月刊致知、2002年7月号)

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