【脳を鍛える:インタビュー(1)】

※ 小学校低学年の計算で脳は活発に動き出す

――川島教授が取り組んでいらっしゃるブレインイメージングとは、具体的にどのような研究なのでしょうか。
(川島)最先端の機械を使って、私たちの脳がどのように働いているのかを画像にして調べる研究です。例えば私がこうしてしゃべっているときに、私の脳の中では何が起こっているのかを、頭を開くことなく、まるで脳を頭の中から取り出したような状態で見ることができるのです。

――どういう仕組みになっているんですか。
(川島)脳の血液の流れの変化をキャッチします。脳神経細胞が活動するためには、エネルギーが必要ですから、栄養を送りこままなければならない。そのために、神経細胞が活動をはじめると、すぐそばにある血管の血流が早くなります。そのスピードの変化を機械でとらえるわけです。この研究は10〜15年前に始まって、私はスタート当初から携っています。
脳の研究は、以前は大脳生理学と呼ばれて、サルやネズミを使って実験していました。しかし、コンピュータと装置の発達によって、直接人間の脳を調べられるようになってきたのです。
 その成果を実際に人の生活に役立てるために、「脳を鍛えるにはどうしたらよいのか」をテーマに据えました。肉体を鍛える、あるいは衰えさせないために、私たちはジョギングをしたり、筋力トレーニングをします。脳も肉体の一部ですから、機能を衰えさせない、もしくは失われた機能を元の状態に戻すためには、日々の鍛錬が必要だと考えました。

――非常に単純明快ですね。
(川島)そうなんです。そこで私たち研究チームは、10年以上にわたる数百の研究をすべて見なおして、何をすれば脳が活発に働くのかを調べてみたんです。すると、その結果は私たちの直観とは大きく乖離した事象でした。
 私たちは普通「難しいことを考えているときにこそ、脳をたくさん使っている」と考えますよね。しかし、実験の結果、一桁の計算など、単純なことをしているときに脳が活発に働くという事実が膨大な研究データから判明したんです。

――専門家から見ても、意外な結果だったわけですね。
(川島)医学の常識では脳の中で計算を司る部分は、左の頭頂葉の一部でしかないと考えられてきました。ところが、実験してみると、右脳も左脳も頭頂葉も使うネットワークで計算をしていることがわかりました。小学生や中学生だけでなく、大学生や大学教授といった高度な計算が出きる人に「1+1=」といった単純な問題を解いてもらっても脳は活発に働きます。
さらにもっと脳が働くのは、実は音読をしているときだという事実にも至ったんです。「これは使えるぞ」と直感しましたね。

(出典:月刊致知、2002年7月号)

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