【知の巨人・マルクスの食生活】

『資本論』を書いて、20世紀の階級闘争、果ては1960年代後半から吹き荒れた日本の学生運動にまで大きな影響を与えた社会主義者、カール・マルクス。若者は過去の思想家、歴史上の人物としか見ないが、団塊の世代には、なかなかに思い入れの深い人間だ。だが、その実像は、団塊世代が思い描くマルクスとはかなり異なる。
『歴史上の人物 生と死のドラマ』(ネストール・ルハン著、酒井シヅ監訳)によれば、マルクスは比類なき大食漢で大酒飲み、更にはヘビースモーカーで、その私生活はおよそマルキスト的とは言えなかった。慢性肝疾患を患っていたとも書かれているが、それでもブルジョア的生活水準をやめようとはしなかったらしい。
いま、私たちは「満ち足りるは憂いの始まり」(『養生訓』)とばかりに、飽食の戒めを噛締める。つまり、エネルギー不滅の法則は健康とも大いに関係し、摂取エネルギーと消費エネルギーのバランスを取ることが必要だと悟った。ことに倹約遺伝子を持つ日本人は、飢餓に強く、飽食に弱い民族。健康的な人生を送るためには食生活にも最新の配慮が求められる。
かくて、団塊世代はマルクスから2つの教訓を得るのである。第1は、実現不可能な永久革命の夢と現実、第2は思想の世界から現実の世界に降りた時の実像と虚像である。ちなみに、マルクスは近親者には暴力的、権威主義的に振る舞い、弱者に対しては優しく丁寧であったという。内面と外面が違うというのは、市井の人も偉大な巨人も変わりないということだろう。

(出典:日経ビジネス、2004/05/17号、田野井正雄=医学ジャーナリスト)

戻る