【長寿の秘訣は心の若さにあり】

滝沢馬琴は50歳過ぎから体調を崩した。文化11(1814)年から書き始めた大長編小説『南総里見八犬伝』の大当たりで、ベストセラー作家になったためだ。馬琴は早朝から夜遅くまで小説を書き、床に入っても眠気がさすまで資料を読みふけった。興に乗ると夜が明けたのにも気づかず、鶏が鳴くのに驚いて起き出し机に向かった。
こんな生活を続けているうちに歯は全て抜け落ち、くらくらとめまいがするようになった。今で言う自律神経失調症だ。馬琴がすごいのは、そうした生活を直ちに改める精神力を持ち合わせていた点だ。深夜の仕事はやめ、庭いじりや釣り、小鳥の飼育でストレスをコントロールした。その後何度か病に倒れたがそれも乗り切った。
最大の危機は67歳のときに襲ってきた。急に右目が見えなくなったのだ。馬琴は左目一つで八犬伝を書き続けた。72歳になると頼りの左目もかすみ出し、昼夜の区別もつかなくなった。それでも執筆はやめなかった。夭折した息子の嫁に字を教え口述筆記させた。
75歳の8月、98巻からなる『南総里見八犬伝』はついに完成した。馬琴自身はそれから7年後、82歳で生涯を終えた。当時としては珍しいほどの長寿だ。日本古典史上最も長い小説を書き続けた意欲、心の若さが病気を退散させ長寿に導いたのだ。
204人の米国人の大学生を40年にわたり追跡調査した結果によると、やる気のない精神生活の貧しい人は死亡するのが早いという。問題は体が老いることではない。心が老いてやる気を失うことだ。

(出典:日経ビジネス、2002/03/18号、堀田宗路=医学ジャーナリスト)

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