【「良薬口に苦し」の科学的な意味】

昔から苦い薬は胃腸の働きを整えるとされてきた。よく知られているのはセンブリだろう。センブリは「千振」と書き、1000回振り出しても苦いことから付けられた名前だ。胃腸に効果のある万能薬として古くから用いられてきた。
そのセンブリよりさらに苦い民間薬がある。ヒキオコシである。ヒキオコシは本州、九州の山野、荒地などで見かけるシソ科のの多年生草本だ。背丈はせいぜい1m。葉は青ジソの葉を細長く伸ばしたような形をしている。古典によると、道行く人が腹痛で死ぬほど苦しんでいるのを見て、弘法大師がヒキオコシを飲ませたところたちどころに治った。そのため、延命草とも名付けられたという。
ヒキオコシはとにかく苦い。プレクトラチンという成分が含まれているためだが、その苦みは40万倍に薄めてもまだ感じられるほど強力だ。この苦みが民間薬として尊ばれ、腹痛や消化不良、食欲不振、食中毒などに用いられてきた。
プレクトラチンは無害だが、その効能はただ苦いというだけだ。本当に胃腸薬として効果があるのだろうか。
実は、苦い味は胃腸の働きを活発にする。苦みは舌の味蕾(みらい)という部分を強く刺激し、反射的に延髄にある分泌中枢を興奮させ、胃液や唾液、膵液などの分泌を増やし消化をよくするのだ。
まさに苦いからいい。苦さを苦さとして受け止めながら服用するところに意義がある。決してオブラートなどで包んで服用すべき性質のものではない。今でも全国の漢方薬店で売られている。

(出典:日経ビジネス、2000/10/02号、堀田宗路=医学ジャーナリスト)

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