【急死を救うネギの薬効とは?】

江戸時代の儒学者・貝原益軒の著した『大和本草』に、長ネギのものすごい薬効が書かれている。「頓死したる人に葱の茎を、男は左、女は右の鼻に七から八寸刺し入れれば鼻血で甦る。又、耳の中に五寸入れ鼻血が出て活る、血が出ざれば死す」。
つまり、急死した人の鼻の穴や耳の穴に長ネギを入れてみて、血が出れば生き返ることがあるというのだ。これはネギ特有の刺激臭による「気付け」作用について書いたものと思われてきた。「頓死した人」というのは、単に「気を失っている人」と解釈すれば、長ネギの薬効としてそれなりに道理があるように思えるからだ。
しかし、益軒は実際にあったことを記しているのではないか。例えば、長ネギをはじめとするニンニク、タマネギなどのネギ属植物には特有の刺激臭があるが、これは細胞中に含まれるアリナーゼという酵素により、揮発性のジスルフィド(イオン化合物)ができてくるためだ。
実はこのジスルフィドに血を固まりにくくする強力な作用がある。中高年になると、血が固まりやすくなり、心筋梗塞や脳梗塞などの血栓症が起こりやすくなる。ネギ類のジスルフィドにはそれを防ぐ作用があり、やはり強力な抗血栓作用(血液を固まりにくくする作用)を持つインドメタシンに匹敵するものもある。
だから、益軒の記述は長ネギによって血栓症から救われた人がいたことをそのまま記しているようにも思えるのだ。「鼻血が出る」のも、血が固まりにくくなるからだ。長ネギを食べて、血栓症が多くなる冬を乗り切ろう。

(出典:日経ビジネス、2001/11/13日号、堀田宗路=医学ジャーナリスト)

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