【垳 ガケっぷち 全国唯一の地名 埼玉・八潮面積の9割、新地名へ】

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区画整理事業が進む埼玉県八潮市で、日本の地名でただ1カ所「垳」(がけ)の文字を使った地名「大字垳」が崖っぷちに立たされている。市が垳の大半を新地名に変えようとしているからだ。「思いとどまってほしい」。市民や専門家らが声を上げた。

八潮市大字垳は、つくばエクスプレス八潮駅から徒歩約10分、中川と垳川に摸した地域。約0・5平方`の面積に639世帯、約1500人が住んでいる。

市は2013年に一部の区画整理が終わることから、周辺の大字「大原」「大曽根」も合わせて垳の面積の約9割を新地名に変える方針だ。今年1月、住民に行ったアンケートでは、選択肢として「横町」「青葉」などが示された。

これに対し、垳町会長の島根秀行さん(72)は「八潮にしかない垳は、文字の文 化遺産。歴史がある『垳』を大切にしてほしい」。同市の大学職員、昼間良次さ ん(38)も「垳という地名を、もっと全国にPRすべきだ」と市に意見書を送り、方針変更を要望した。

一方、市の担当者は「候補に挙げた町名から選ぷ方向で、市長の諮問機関が検討している」と語り、方針変更はないという。

垳の文字は、同市の地名にあることを理由に、1978年に「JIS(日本工業規格)漢字コード」の「第2水準」に採用され、ワープロやパソコンで使えるようになった。

早稲田大学の笹原宏之教授(日本語学)によると、日本で作られた「国字」。 「土」が流れて「行」く様子を表した文字との伝承があり、「がけ」と読む文字 としては江戸中期に定着した「崖」よりも古い。「日本人は社会に合わせて新し い文字を生み出してきた。『垳』は、その名残をとどめる貴重な文字。人々の生 活と切り離されれば、文字の存在意義は失われていく」と話している。(橋祐典)

(出典:朝日新聞、2012/03/05)

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